「円安は日本経済全体にとってメリット」。日本銀行はその論調を崩さない。しかし今の円安は、各国の保護主義化や、脱炭素、資源高といったさまざまな変化が一気に押し寄せる中で強烈に進んでいる。「円安最強説」は、嘘(うそ)か実(まこと)か。なぜ日銀は金融緩和路線をなかなか変更できないのか。特集『「円安」最強説の嘘』の#1では、唐鎌大輔・みずほ銀行市場営業部チーフマーケット・エコノミストに、日本のあるべき金融政策について聞いた。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)
日銀が「円安は日本にとってプラス」と
主張し続けるのはなぜか
――日本銀行は「円安は日本経済全体にとってプラス」という姿勢を崩していませんが、円安になれば輸入コストがかさみます。特に現在は、ウクライナ危機の影響や脱炭素という世界的な潮流などにより、ただでさえ資源や原材料の価格が高騰しています。円安は、本当に日本にとってプラスなのでしょうか。
円安の功罪は、“総論”と“各論”を分けて考えないと判断を誤ります。日本銀行の黒田東彦総裁は「円安は全体として日本経済にプラスに作用している」と語っていますが、私はこの考え方自体は真摯(しんし)に受け止めるべきだと思っています。というのも、これは日銀が計量分析を行って導き出した結論だからです。
日銀の分析結果は、1月に公表された「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」にも記されていますが、簡単に説明すると、日銀が指摘する円安のメリットは大きく三つ。すなわち、(1)価格競争力増大による財・サービス輸出の拡大、(2)円建ての輸出額増加による企業収益の改善、(3)円建ての所得収支――例えば過去に投資した株式の円建て配当金など――の増大です。
一方、円安にはもちろんデメリットもあります。資源などの輸入コスト上昇による企業収益や、消費者の購買力の低下です。しかし日銀は、そのデメリットよりも(1)~(3)のメリットの合計の方が大きいから、円安は日本経済にプラスだと言っているわけです。
ただし、円安は日本経済「全体」にとってはプラスかもしれませんが、経済主体を個別に見ていくと、必ずしもそうだとは言えません。
円安のメリットを享受できるのは基本的にはグローバル大企業です。内需主導型の中小・零細企業や一般家計の多くにとっては、デメリットが大きい。
――そもそも、日銀が挙げる円安のメリット自体も近年、縮小しています。