ソニーホールディングスPhoto:AFP=JIJI

かつて自動車と並ぶ輸出産業の“花形”だった日本の電機(エレクトロニクス)。リーマンショック後のテレビやスマートフォンの“敗戦”で、円安メリットを享受する前提となる国内基盤を失った電機メーカーは多い。約20年ぶりの円安水準に達しているが、その明暗が大きく分かれている。

半導体不足のソニーPS5
日本で販売しにくい事情

 ソニーグループの業績をけん引する家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)5」は、半導体不足や物流の混乱で、4月に入っても家電量販店で抽選販売が行われるなど品薄が続いている。

 PS5の主要市場は日本、北米、欧州の3地域で、供給制約のあるPS5をどんな比率で配分するかは頭の痛い課題だ。中でもソニーには、日本国内での販売を拡大させにくい事情がある。

 それが、対ドルで20年ぶりの水準まで下落した円安だ。

 PS5の生産のほとんどは、台湾の鴻海精密工業など電子機器受託生産サービス(EMS)に委託している。その製造コストはドル建てだ。つまり、「輸入品」であるPS5の国内販売製品は円安進行に伴い調達コストが上昇し、ソニーの収益を圧迫することになる。

 過度な円安が企業業績に悪影響を及ぼす「悪い円安論」がくすぶる中、輸出業種の代表格である大手製造業は円安の恩恵を享受するとされてきた。だが、今やエレクトロニクス産業にこうした「円安=メリット」の論理を単純に当てはめることは難しい。

 かつて世界最強とされた日本のエレクトロニクス産業は、過去の円高で生産拠点の多くを海外に移転した。これに加え、リーマンショックを境に韓国・台湾勢との競争に敗れたことで、国内の旗艦生産工場は消滅した。

 もはや、日本のエレクトロニクス産業を輸出企業と呼ぶことすら難しい。ドル、ユーロ、人民元に対する独歩安が続くにつれ、円安リスクすら顕在化してきた。

 次ページ以降では、近年に起きたエレクトロニクス産業の構造変化をひも解く。また、この円安局面における業績へのインパクトでは、ソニー・パナソニックホールディングス・村田製作所で明暗が分かれることになりそうだ。その背景についても解説する。