5大商社である丸紅傘下の「丸紅新電力」が電力小売り事業からの“撤退戦”を始めたことが分かった。一部の既存顧客には電力需給契約を更新しない旨を通知し、別の電力会社に契約を切り替えるよう伝えている。特集『「円安」最強説の嘘』の#5では、円安・資源高が招いた国内新電力の苦境ぶりを詳報する。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
資源高に追い打ちをかけた
ウクライナ侵攻と円安
2011年に設立された丸紅新電力は、大手電力会社以外で700社以上ある「新電力」業界で、トップ20に入る大手新電力だ。特に小規模の工場や店舗といった「高圧」部門を中心に顧客を獲得してきた。
すでに丸紅新電力は、体力を消耗しきっていた。20年末から21年初めに襲った寒波による電力需給逼迫(ひっぱく)で、顧客に販売する電力を仕入れる日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は、1kWh当たり150円を突破するなど例年の10倍以上の水準まで爆騰。「逆ざや」による大量のキャッシュが流出した。
これにより、丸紅新電力は21年3月期決算で68億円の最終赤字を計上した。財務の健全性を示す指標である自己資本比率は4%を切り、業績を立て直せなければ債務超過に陥る恐れすら出ていた。
今期に入ってからは資源高に苦しめられた。世界的な脱炭素シフトにより、火力発電の燃料である石炭やLNG(液化天然ガス)の価格が上昇。JEPXのスポット価格も例年の2〜3倍に高騰し、キャッシュ流出が止まらない状況が続いていた。
とうとう丸紅新電力は電力小売り事業からの一部撤退を余儀なくされた。決定打となったのは、ロシアによるウクライナ侵攻、そして円安だ。ウクライナ侵攻と円安の“ダブルパンチ”と、さらにエネルギー価格が高騰し、これ以上のキャッシュ流出に耐えられなくなったのだ。
次ページ以降では、丸紅新電力から電力需給契約の解消を突然通知された顧客の怒り、そして電力業界“総崩れ”の惨状を詳報する。