ココ壱Photo:Bloomberg/gettyimages

外食業界では「値上げはタブー、円安は逆風」という旧来の常識が崩れつつある。特集『「円安」最強説の嘘』の#6では、値上げや客単価のアップに成功した具体的事例を明らかにすると共に、外食企業が生き残るための「二つの条件」を提示する。また、「ココイチ(壱番屋)」における主要10カ国の客単価比較をすることで、 “安い国”に成り下がった日本の実態も明らかにしていこう。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

“デフレの象徴”牛丼でも消費者が容認
外食業界で始まった「値上げラッシュ」

 長らく、日本の外食業界ではメニュー価格を上げることがタブー視されてきた。これまで外食企業は、食材価格や人件費の上昇などの逆風が吹いても主力メニューの売価を据え置いた経営が求められ、客数アップやコスト削減などの手段で乗り切るのがもっぱらだった。

 だがここにきて、外食業界に“異変”が起きている。禁断の値上げに成功する事例が出てきているのだ。きっかけは、円安や原材料高、資源高だ。輸入小麦、ノルウェー産生サーモンなどの水産物、輸入食肉、コーヒー豆など、食関連のあらゆる相場が上昇している。例外的に下がっているのが米価だが、そもそもの単価が高いので、小麦から米に簡単に転換できるわけではない。

 昨年から、食材コストや輸送コストの上昇に耐えかねた外食チェーンが値上げに踏み切り始めている。

 先陣を切ったのが牛丼チェーンだ。昨年9月に松屋フーズホールディングスが松屋の「牛めし」を320円から380円に値上げ。直後の同10月の既存店客数は前年同期比88.4%となり、値上げ戦略は失敗したかのように見えた。

 その後、潮目が変わる。昨年10月末、今度は吉野家ホールディングスが吉野家の「牛丼並盛」を387円から426円へ値上げした。その直後の同11月、同12月の既存店客数は前年同期比プラスとなる“健闘”を見せたのだ。昨年末には、最後のゼンショーホールディングスもすき家の「牛丼並盛」を350円から400円に値上げしたところ、2022年1月以降も既存店客数はプラスをキープしている。

 デフレの象徴とされてきた牛丼で値上げに成功しつつあることは、外食業界にとって大きなターニングポイントとなりそうだ。牛丼チェーンの顧客は(ヘビーユーザーが多かったり、低所得者層も含まれたりすることから、)“価格コンシャス”であることで知られるが、その消費者が値上げを容認したとも考えられるからだ。

 実際、すでに外食企業では「値上げラッシュ」が始まっている。丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスも定番の「かけうどん」などを値上げし、リンガーハットも「長崎ちゃんぽん」などの値上げを決めた。牛丼、麺類などの専門店で先行した値上げは、これから居酒屋などメニュー展開が広い業態へも波及することになりそうだ。

 どのような外食企業が値上げに成功しているのか。

 次ページでは、値上げや客単価のアップに成功したココイチ(カレーハウスCoCo壱番屋)を展開する壱番屋、トリドール、ロイヤルホスト(ロイヤルホールディングスが展開)の事例を基に、将来的に外食企業が生き残るための「二つの条件」を提示する。

 また、壱番屋の世界10カ国・地域における客単価の推移も図版付きでお届けする。これを見ると、いかに日本の外食のプライシングが世界標準とかけ離れているかがよく分かる。もはや“安い国”に成り下がった日本の実態も明らかにしていこう。