一見問題がなさそうな話から説明させていただきます。プロのマーケッターは多くの商材で「ある年齢を超えるとファン化するのが難しい」ことを知っていて、「その年齢になる以前に商品を使わせてファンにする」というマーケティング戦略を日常的に採用しています。

 大手消費財メーカーの女性の生理用品ブランドでは、小学生に無償で商品を配る戦略を採用しています。大半のファミレスは、来店した子どもにおもちゃをプレゼントして喜んでもらう戦略を採用しています。ここまでは読者の皆さんも、「別にやってもいいんじゃないか」と考えるのではないでしょうか。

 ところが、今は問題がないと思われても、いつかこれが社会問題になる日が来るかもしれません。

 アメリカで問題になったのは、飲料メーカーが予算の足りない公立学校に資金援助をする見返りに自販機を校内に設置させていた戦略でした。糖分を欲しがる子どものうちに炭酸飲料のファンにしようという戦略です。

 アメリカではそもそも糖尿病や肥満を引き起こす可能性のある商品について、未成年を対象に強いファンにする戦略は社会問題であると考える層が増え始めています。「若年のエントリーユーザーをファンにする戦略」はそれ自体が微妙な問題をはらんでいるのです。

 要するにガイドラインというものは、時代とともに変わるのです。今回の吉野家の問題、起きた事件自体は問題外だとしても、二度と起こさない対策については考えれば考えるほど奥の深い問題に私には思えるのです。 断罪するのは容易でも、二度と起こさないことは非常に難しい。しかし経営者は、その問題に取り組まなければならない。21世紀の企業経営はかくのごとく大変なのです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)