「市場調査なんて要らない」という主張は、米アップルの共同創業者である故スティーブ・ジョブズ氏が遺した伝説の一つだ。そして日本にも「市場調査が要らない」企業がある。うどんチェーン「丸亀製麺」だ。しかし、丸亀製麺が要らない理由はジョブズ氏の主張とは似て非なるものだ。全く別の理由になる事情とは?(イトモス研究所所長 小倉健一)
「市場調査は必要ない」
ジョブズ氏と丸亀製麺で異なる事情
1分と歩かないくらい近い距離に、同じ系列のコンビニエンスストアが建っていることがある。この謎について、コンビニ側は「競合他社に客が流れないよう、出店密度を高くするためだ」と説明する。いわゆる「ドミナント戦略」だ。
だが一方で「フランチャイズ契約を結んだ店舗にまず出店させて、客足や売り上げを見つつ、行けそうだったら近くに直営店を出すというあくどい戦法だ」という指摘も後を絶たない。つまり、フランチャイズ契約のオーナー店舗は、テストマーケティングの実験場として使い捨てられる……というわけだ。
真偽のほどはもちろん定かではないが、「客足」「売れ行き」は机上のデータだけでは予測しきれないという前提があるからこそ、こうした「謎解き」が出てくるのだろう。
確かに市場調査、マーケティングをデータだけで行うのはかなり難しい。例えば周囲に競合店がなく、人通りの面でも悪くない立地なのに、何度店が入れ替わっても1年持たずにつぶれるようなゾーンというのは存在する。
「なぜその店が選ばれるのか」には明確な理由があるが、「なぜこの店は一度も選ばれることなく、入る前から客を逃しているのか」の理由は、そうはっきりとはしないだろう。
「月刊コンビニ」の2月号に面白いことが指摘されていた。同誌によれば、自宅と駅を自転車で往復するケースで、自宅付近と駅付近の二つのコンビニ、どちらを利用するかを調査した。すると、自宅付近の利用が多くなるというのである(泉裕幸「出店立地の見極め方」、月刊コンビニ2月号)。
同じ動線上にありながら、違う売り上げになってしまう。確かに私自身も自宅付近のコンビニを利用する場合が多い。
この例を一つとっても、データを集める難しさが表れている。
どんなに大規模な全国チェーン店であれ、新店舗を出すのは一大事だ。だからこそ、できる限り事前に計算を立てておきたいのであり、そのために市場調査を行う。市場調査を行っておけば、「仮に問題があっても『調査では大丈夫だった』と言い訳が立つ」という事情もあるかもしれない。
だが、市場調査をあまり必要としないと思われる経営者や企業もいる。米アップルの共同創業者であるスティーブ・ジョブズ氏や、うどんチェーンを運営する丸亀製麺だ。
ただし、ジョブズ氏と丸亀製麺とでは、同じ「市場調査は要らない」という言葉でも全く意味が違ってくる。その事情をご紹介したい。