4月18日に普陀区に届いた配給品には、済南聖都食品(山東省)が生産したハムが入っていた。その生産日は2022年4月17日と印字されていた。しかし、受け取った住民は、味に異常を感じると同時に、生産日の翌日という異常に早いスピードで上海に届けられたことに疑念を持った。また、別の区でも、4月20日に製造された食用油(江蘇省産)が翌日21日届けられるといった珍事がSNSで拡散された。

 いわゆる食品偽装である。地方から届く“怪しげな食料品の配給”について、同メディアは「消費者の声は上海市の閔行区、普陀区、宝山区、楊浦区などで上がっている」と伝えており、上海市内でも特に郊外のエリアで頻発していたことがわかる。

政府予算に札付きメーカーが群がった

 なぜこうした事態が起こったのかといえば、ロックダウンの非常事態下で、直接「区」や「街道」という行政単位が、食料品の調達に乗り出したことに原因がある。

 中国の行政区分は、市の下に「区」があり、区の下に「街道(または村に相当する鎮)」がある。さらに、街道の下には「居民委員会」があり、居民委員会は「小区を含む社区」を管理するという形になっている。

「街道」は、道路ごとに住民を管理する末端の行政単位に相当する。「居民委員会」を指導し、住民の意見を区政府に反映させたり、住民同士の争い事を調停するのが主な業務だ。「街道」には通常、食品の調達業務はなく、このような知識を持つ専門人材に乏しいことが災いした。

 経験値のない“素人”が、この混乱の中で食料品を調達しようとすれば、“昔から付き合いのあった企業”や“子飼いにしていた連中”に頼るほかない。あるいは食品商社に丸投げするかだ。こうしたことが“汚職”につながった。

 閔行区の一部の鎮では、基準に満たない劣化した豚肉が配給され大騒ぎになった。この鎮は、上海の食品企業を配給業者に指定し、760万元(約1億5000万円)で豚肉を購入した。しかし、現地メディアの報道によれば「(同鎮は)購入した豚肉の質に問題があることを知っていながら配給した」というから始末が悪い。

 この“豚肉事件”からも、各街道には市政府からの潤沢な予算が振り分けられていることが見て取れる。しかし、小売流通業に従事する楊毅さん(仮名)は「街道の持つ予算に地方の“札付きの食品メーカー”が群がったという構図ではないか」とみている。

 また楊さんによれば、「一部の『街道』では『団購』を禁止して、街道の役人の息のかかった業者を入れようとして、住民ともめている」とも話す。

「団購」は、住宅地ごとに一括して食料品をグループ購入するシステムで、住人がスマホのアプリを使って組織するものだ。この「団購」を街道が排除しようとするのは、街道の役人 を“ロックダウン特需”から遠ざけるからだろう。街道と業者間の利益供与(つまり賄賂)の有無について、上海市規律検査委員会は目下、調査に乗り出している。