パワードスーツや
人が乗るロボットも

 金岡博士は人間が操作するほうがロボットの性能を最大限に引き出すことができると考える。だが人間が操作をするのであれば、人間の身体に装着して力を増幅する、いわゆる「パワードスーツ」でもいいのではないかという考えもあるだろう。

「人とロボットの距離の問題だと思っていて、操作しないロボットだったら関係ないのですが、操作する場合に人とロボットの距離をどうやって取るかという課題があると思っています。ひとつは遠隔操作でオペレーションですね。アバターロボットと呼ばれるような、数百キロ離れた遠隔地から操るシステムがあります。それと対照的に距離がゼロになる場合、パワードスーツと呼ばれる着るロボットという概念があると思います」

「パワードスーツに関しては、人とロボットが完全に同期する必要はないんですよね。我々のシステムは人が右手を動かすとロボットの右手も動きますが、そこには係数がかかっていて、人とロボットにかかる力は一致していません。しかしパワードスーツが万歳をしようとしたら、当然その中に入っている人間の腕も万歳しなければならない。暴走したら人間の腕までねじ曲がってしまうようでは、やっぱり実用化できないわけですよね」

 なるほど、人間をはるかに超える力を持つロボットと生身の体が常に同期しているというのは、考えてみれば恐ろしい。

「そのふたつの形の間にあるのが、同じく距離はゼロなのですが、人がロボットの中にあるコクピットに乗り込むような場合です。遠隔操作と乗るタイプの間にも、遠隔ではなくロボットから数メートル、離れても50メートルぐらいの距離で操作する近接操作があると思います。大まかにこの四つに分類できると思っていて、状況ごとにどれが適切かを選んでいくことになります」

 空間重作業人機の開発においても、至近距離ではなく現場から離れたコントロールセンターから操作できないかという要望もあったそうだ。しかし、通信上のタイムラグが生じず、臨場感があってロボットと一体化しやすい近接操作が望ましいとして、今回の形態に決定したという。

「ロボットの体中に設けられたコクピットの中に人が乗り込むようなタイプには工学的必然性があると思っています。ロボットに乗り込むこと自体のリスクはあるとはいえ、最低限の安全性は確保できます。ロボットが暴走しても、腕が取れたとしても、人の腕が取れるわけではありません」

 アニメや漫画ではたまに、ロボットとパイロットの痛覚を同期させるシステムが登場するが、せっかくロボットに乗っているのだから、わざわざ人間に痛みを伝える必要はない。バイラテラル制御による力のフィードバックがあれば、十分にロボットと一体化することができる。

「さらに重要だと思っているのは、ロボットが倒れるような場合、近接操作だとロボットが倒れても人間は倒れていないといった不一致が起こります。でも人間が乗り込めば、ロボットが倒れたら人間も倒れるわけです。倒れるまでいかなくても、体を傾けたり、さまざまな動作をするなど感覚の一致が必要な場合には、ロボットに乗り込むのが有利だと思っています」

 搭乗タイプの二足歩行型ロボットが非現実的ではないとは、現実がアニメの世界に近づいてきたようではないか。実際、JR西日本の担当者は人型ロボットの導入によって保守現場のイメージが変わることにも期待していると話す。ロボットの操縦に憧れて志望する人も出てくるはずだ。

 10年もすれば、そこかしこで人型ロボットが作業をしている光景を目にすることができるかもしれない。

(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)