メタバース上で高価なブランド品を購入するのは
「危険な賭け」になるかもしれない理由

 さて、本来であれば一度購入したバーチャルブランドアイテムは、どのメタバースにでも持ち込めるのが消費者側の理想ですが、ここは近い将来、メタバースの運営企業とブランド企業の間でもうけを巡ってひと騒動が起きそうです。

 実は消費者から見れば今、どこかのメタバースサイト上で高価なブランド品を購入するのは賭けかもしれません。というのは、そのメタバースがそれほど流行せずに消えてしまうかもしれないからです。

 あくまでわかりやすい例として架空の未来を想像すると、任天堂の家庭用ゲーム「あつまれ どうぶつの森」上にナイキがお店を開いて、スニーカーを売ってくれる未来が来ると仮定しましょう。それで、読者のみなさんが3万円でスニーカーを買ったとします。

 ところが10年後、ニンテンドースイッチの時代は終わり、ユーザーはニンテンドースイッチ5上の「あつまれ どうぶつの森2032」で遊んでいるかもしれません。そのとき、以前3万円で買ったスニーカーを新しいメタバースに持ち込めるのかという話が問題になります。

 今の例なら任天堂とナイキの話し合いで解決してくれるかもしれませんが、それが2032年のプレイステーションX上のモンスターハンター32となると、任天堂が販売したナイキのデジタルスニーカーは持ち込めないかもしれません。

 これは、プラットフォームを運営する側から見れば当然そうしたいところです。ディズニーが運営するメタバースに、任天堂が販売したマリオのTシャツを着たアバターが簡単に来園しては困りものです。

 そもそもプラットフォーム側では、メタバース上で販売されるスニーカーから30%ぐらいの手数料を取るビジネスモデルを考えるでしょう。グーグルのプラットフォーム上で購入したアイテムを、無料でアップルのプラットフォーム上に持ってこられたらビジネスにならないと考えるかもしれません。

 一方でIP側のナイキやロレックスやマリオにとってみれば、NFTで裏打ちしたデジタル商品の価値は永続した方が販売しやすい。消費者も価値の永続を保証してもらった方が購入について納得しやすいはずです。

 おそらく将来的にはこのあたりのルールが定められて、レアなデジタルスニーカーを持っている所有者は一定の利用料を払うことで、さまざまなメタバースにお気に入りのアイテムを持ち込むことができるようになるのではないか、と私は予測しています。理由は、そのようなルールのほうが、市場が広がるからです。

 話をまとめます。メタバースはこれから先、さまざまな形で私たちの日常にバーチャルな形で入り込み、市場は成長していくことでしょう。そのメタバースで私たちの代わりに活動するアバターに対して、さまざまなブランド品市場が生まれるでしょう。それはルールさえ早期に固まれば、リアルな世界で販売されているブランド品やキャラクター商品の市場を倍化させられる可能性を持っていると思います。

 そして、電子書籍の漫画市場がリアルな本棚の制約がなくなったことで拡大したように、場合によってはコレクターが、自宅の広さを気にせずにたくさんのアイテムを購入することでリアル市場よりも大きなブランド市場を作れるかもしれない。そう考えれば、今、メタバースの関係者が早期に着手すべきはルール作りなのかもしれません。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)