その背景には、電力関連事業者や自動車メーカーによる技術要件に関する認識の差、また国や地域による経済政策としての政治的な駆け引き、さらにテスラに見られるようなメーカーの事業戦略など、さまざまな要因がある。

 筆者は2000年代から、アメリカの自動車技術会を基点に始まった急速充電・普通充電に関する議論を世界各国で取材してきたが、現時点でも協議の出口が見えていないと捉えている。

 そうした中、日本での急速充電は三相200V交流電源を使い直流で出力するもの。大出力型が40kWや50kWで、最新型では90kWが登場している。

 価格は仕様によるが、充電器単体で500万円以上、工事費もかなりかかるため総額で1000万円を超えることも珍しくない。

 また、急速充電器の今後の設置計画については、東京電力や自動車メーカー各社でつくる充電サービス事業者で、現時点で急速充電事業での最大手であるイーモビリティパワーの存在が大きい。同社によると、急速充電器の設置数は過去数年で横ばいから減少に転じている。これは、2010年代初めに導入した機器の製品寿命による買い替え時期に当たるためだ。

 その上で、イーモビリティパワーでは自動車業界と密に情報共有しており、市場ニーズと事業性、そして今後のBEV販売計画のバランスを考えながら、市場の動きの半歩先を行く形で充電器の整備計画を進めているところだという。

自宅充電が基本で満充電まで8時間
ロングドライブも安心?

 ユーザーにとって気になるのは、充電時間である。

 BEVの充電時間は、充電器の出力と搭載する電池容量によって決まる。

「サクラ」と「ekクロスEV」の電池容量は20kWhなので、例えば普通充電3kWで充電すれば、満充電までの時間は単純計算で20kWh÷3kW=6.7時間となる。ただし、電池の性能を維持するための電子制御によって、それよりも充電時間は若干長くなる。

日産自動車の新型軽BEV「サクラ」の電池パック日産自動車の新型軽BEV「サクラ」の電池パック 写真提供:日産自動車

 三菱自動車の資料では、標準設定の普通充電器は200V・14.5Aで出力は2.9kW。満充電までの目安は約8時間と説明している。つまり、一晩かかるということだ。

 その上で「帰ったらおうち充電が、毎日のルーティン」という表現を商品カタログで用いている。また、「サクラ」の発表記者会見で、星野朝子副社長は「自宅充電をライフスタイルとして取り入れることをプロモートしていきたい」と指摘している。

 裏を返せば、電池容量20kWhであれば、車両本体価格に占める電池のコストを抑制でき、また3kWと普通充電として比較的に低い出力でコストも高くない充電インフラが自宅で使えることがユーザーのメリットになり、結果的に新車販売数も増えるというのが、日産自動車と三菱自動車の事業戦略の方向性だといえるだろう。

三菱自動車の新型軽BEV「ekクロスEV」が普通充電する様子三菱自動車の新型軽BEV「ekクロスEV」が普通充電する様子 写真提供:三菱自動車工業

 一方、急速充電について、三菱自動車は「すばやく寄り道充電。ロングドライブも安心」と称している。8200基の急速充電器が、全国530店舗ある三菱販売店の約9割の店舗や、そのほか高速道路のSA/PA、コンビニ、道の駅などに設置されているから、出先でも電欠の心配は少ないという説明である。

 急速充電については、急速充電器の出力がさまざまあるが、30kW程度を想定して、満充電の80%までが約40分間という数字を示している。

公共向け充電インフラは計画的に増加
ユーザー層で自宅と公共での充電意識に違いが生じる?

 このように、「サクラ」と「ekクロスEV」は、これまで日本で発売された日産自動車「リーフ」、三菱自動車「i-MiEV」、ホンダ「e」、テスラ「モデルS」「モデルX」「モデル3」、BMW「i3」などのBEVと比べて、充電に関するメーカーの方針は特に変わっていない印象がある。

 それでも、日産自動車の内田誠CEO(最高経営責任者)と、三菱自動車の加藤隆雄CEOはともに、「サクラ」と「ekクロスEV」を「BEVのゲームチェンジャー」と呼ぶ。これは、あくまでも現時点での軽自動車の利活用状況を踏まえて考えれば、ゲームチェンジャーと呼んでも差し支えないということであって、充電時間の大幅な短縮や航続距離の大幅な延長といったBEVとしての技術的な革新を意味しているものではないと考えられる。

 それよりも、現状での量産型電池の性能を前提とした充電という行為に対して、ユーザーの意識がこれからどう変わっていくのか、それとも結局変わらないのかという点が「サクラ」と「ekクロスEV」によって浮き彫りになるだろう。

 さて、BEVユーザーの充電に関するライフスタイル変化という点で、日本市場でのテスラオーナーにまつわる話が実に興味深いので、ご紹介する。