全固体電池は、トヨタ自動車や日産自動車が量産化や実用化の計画を発表したことで脚光を浴びている。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の#6では、この次世代電池開発の“第一人者”である東京工業大学の菅野了次特命教授に、全固体電池の真の実力について聞いた。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
トヨタ、日産、独VWがしのぎ削る
全固体電池ブームは本物か?
従来の液系リチウムイオン電池と比べて充電時間が短く、発火のリスクが少ない全固体電池は、いまでこそ次世代電池として定着しつつあるが、2016年に東京工業大学の菅野了次特命教授やトヨタ自動車の加藤祐樹博士らの研究グループが画期的な材料を発表するまでは“夢”の技術の域を脱していなかった。
菅野教授らは40年にわたる全固体電池の研究の末、難しいとされていた「固体」の電解質の材料を開発した。電池は、正極と負極の間にある電解質をイオンが移動することで電気を流す。従来の電解質は可燃性の「液」であり、漏れ出したり、燃えたりするリスクがあった。
この固体の電解質の発明を機に、トヨタや日産自動車が全固体電池の開発を本格化。実用化に向けた熾烈な競争が始まった。両社は21年、全固体電池の量産化や実用化の計画を相次いで発表した。
トヨタは20年代前半にハイブリッド車(HV)用の全固体電池を量産する。
一方、日産は24年度までに全固体電池の量産に向けた試験的な製造ラインをつくり、28年度に同電池を搭載した電気自動車(EV)を発売する。従来の液系リチウムイオン電池と同等まで生産コストを下げるといった具体的な目標を打ち出したため、業界関係者から驚きの声が上がった。
全固体電池に注力しているのは日系メーカーばかりではない。ドイツのフォルクスワーゲンは26年に全固体電池を搭載したEVを生産する予定だ。
こうした発表もあって、自動車業界は全固体電池ブームの様相を呈しているが、とりわけ日本では期待が先行している面があるようだ。
その背景には、現行の車載電池(液系リチウムイオン電池)において、日系メーカーが競合とのシェア争いで負けがほぼ確定してしまったという事実がある。最大手の中国CATL(寧徳時代新能源科技)や韓国のLGエナジーソリューションなどによる巨額投資競争に付いていけなかったのだ。
その結果、「現在は劣勢だが、次世代の電池では巻き返せる」という希望的観測も含めて、全固体電池に過度な期待が寄せられているようだ。
もっとも、世界に先駆けて全固体電池を実用化できれば、日本の自動車産業にとって福音となることは間違いない。航続距離が長いEVや、低床で乗り降りが楽なEV(電池の温度を下げるための冷却機構が不要なため)など、かつてない製品を投入できるようになるからだ。
それでは菅野教授に「全固体電池の真実」を語ってもらおう。