戦略物資 半導体&EV電池#9Photo:3alexd/gettyimages

電気自動車(EV)の本格的な普及を見据え、車載用リチウムイオン電池工場の建設が欧米や中国で進んでいる。日本は電池の研究開発で世界をリードしていたが、設備投資競争に出遅れたことで“負け”が確定しつつある。そんな中、反転攻勢のきっかけとして期待を集めているのが次世代電池の本命と目される全固体電池だ。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の#9では、トヨタ自動車をはじめとしたメーカー各社の特許出願状況から、日系メーカーが研究開発で独走している全固体電池の可能性と課題に迫る。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)

電池の開発リードした日本の技術者
日本はノーベル賞獲得でも「産業化」で失敗

 スマートフォンなどへの導入で急速に普及したリチウムイオン電池の開発をリードしたのは、日本人の技術者だった。2019年に吉野彰・旭化成名誉フェローがノーベル化学賞を受賞したのがその象徴だ。

 だが、日系メーカーがスマホやノートパソコンなど電化製品の市場シェアを落としていくのを追い掛けるように、日本の電池産業の存在感も低下していった。

 そうした中でも、日本のお家芸である自動車業界では電池も輝きを保っていたといえる。民生電池の勢いには陰りがあったが、車載電池ではトヨタ自動車のハイブリッド車(HV)向け電池を納入していたパナソニックが世界シェア首位に君臨していた。

 ところが現在、パナソニックは車載電池の市場シェアで中国・寧徳時代新能源科技(CATL)に首位を奪われ、3位(シェア13%)に甘んじている(韓国の調査会社、SNE Researchがまとめた21年1~10月の車載電池のシェア)。

 日系電池メーカーの没落は目を覆わんばかりだ。シェア上位10位に入ったのはパナソニック1社のみ。同社は当初、米電気自動車(EV)メーカーのテスラに独占的に電池を供給していたが、テスラは中韓の電池メーカーからも電池を調達するようになり、“仕入先の一つ”に格下げされてしまった。それどころか、独ベルリン工場では電池の内製化も進めている。

 これに対して中国勢はシェアトップのCATL(同31%)、4位のBYD(同9%)など6社がトップ10入りし、市場全体の47%以上を占めるまでに躍進。韓国勢もLG化学(同21%)が2位に食い込むなど中国勢に追随する。

 日本勢と中韓勢との格差は今後さらに広がりそうだ。とりわけ中国勢は車載電池工場建設に巨費を投じ、投資規模では他国を圧倒しているからだ。残念ながら、当面の車載電池のシェア争いでは「日本の敗北」はほぼ決まりつつある。

 そこで、日本の電池産業の反転攻勢のきっかけとして期待されているのが、従来の液系リチウムイオン電池に比べ充電時間が短く、発火のリスクが少ない全固体電池だ。

 日系企業はこの次世代電池の特許保有数で突出している。以降では、全固体電池を巡る日本の強みと、先駆者として優位性を生かすための課題を見ていこう。