入山 「ティール組織」は進化心理学という視点が前提になっています。人間や人間の織りなす組織の心理も社会の変容とともにカギになるドライバーが変わる、という考え方ですね。これが僕なりに読み解いた時の、経営理論の視点と符合するんです。

 まず中世までの世界で、人や組織のドライバーに重要だったのは「Power」です。教会や王様に権威や権力というものがあって、権力者が権力のない人たちに施しを与えることで社会が回る時代でした。

國光 僕は、その次の一大発明は、オランダの東インド会社だと思っています。

入山 同感です。東インド会社に端を発して、やがて株式市場ができて資本市場が機能するようになって重要になってきたのが、「Efficiency(効率)」です。特にこれがうまくいきだしたのが18世紀半ばから19世紀にかけての産業革命です。

 よく蒸気機関ができたから産業革命が起きたと言われますが、そうではなくて蒸気機関と株主資本主義がワンセットで起きました。株主資本主義になって巨額の資本が調達できるようになったからこそ、大量生産ができるようになった。それと同時に、効率を上げてリターンを株主に返さないといけない世界が生まれた。だから現代のビジネスも、基本はこれで動いている。

尾原 そして、その次に来る時代はどう考えておられますか?

入山 今後は、さらに「共感性」がドライバーとして重要になってくると僕は思います。変化が激しいのでイノベーションがさらに求められるようになる。他方で、人と人がさらに自由につながり出すようになってきているので、ビジョンとネットワークが重要になる。

 しかし、いま起きているビジョンとネットワークは、たとえばイーロン・マスクのような強いリーダーがいて、彼の周りにイーロン・マスクのビジョンに共感する人たちがいて、この人たちと放射状でつながっている世界観というのが僕の理解です。そして、今後の世界で来るのがネットワークと、ビジョン、さらにはエンパシー(共感)です。

國光 そうなってくると、みんなが自律分散で、それぞれが勝手につながりだしますよね。

入山 はい、さらにさまざまな人々がぐちゃぐちゃにつながりだすので、強いリーダーを中心とした放射状のつながりではなく、ぐちゃぐちゃな「中心がないネットワーク」という世界になるはずなんです。

 各自が自分の好きなことやビジョンに共感した人と自由につながる時代になってくるので、共感しなければその組織から出ていけばいいし。共感したら、また入ればいいわけで。これは、まさにティール組織なんです。

 だから、これからの時代はこういうティールの時代になる。これを僕はDAOと同じことだと思っているんです。

 ただ、僕が3年前に本に書いたときは、インセンティブをどうやって管理するの、といった技術的にこれを担保してくれるものがなかったんですが、ブロックチェーンが社会に実装されたら、こういう世界になってくるんだろうなとうっすら思っていました。それを國光さんが今回ずばり言語化してくださった、と思っています。