DAOの世界では意思決定をどのように行うのか?

國光 意思決定の部分は、僕は引き続き従来のWeb2時代とそんなに変わらず、プロダクトや組織のステージに応じて適切なマネジメントスタイルがあるものだと思っています。

 プロジェクトが立ち上がったばかりの初期は圧倒的なグリップやスピード感で進めていかなければならないので、ビジョンがあるリーダーの独裁主義のほうがいい。ただ、その先に優秀な人が入ってきたときに、いつまでも一人でやっているとそこがボトルネックになる可能性がある。だから、取締役会やマネジメントチームをつくって分散化させていく。

 この後、ビジネスモデルがしっかりしてくると、意思決定の速さよりも「間違えないようにする」や「ガバナンス」や「リーダーが暴走しないこと」のほうがより重要になってくるので、株主のガバナンスがより肝になってくるでしょう。

 僕はこの意思決定の部分はプロダクトや会社のステージによって、最善のものを選択すべきで、これはWeb2でもWeb3でも似たようなものだと考えています。

尾原 「DAO=組織の意思決定が全て自律分散で行われる」とは限らないわけですね。

入山 DAOの世界ではいろいろな人がコミットしていく中、「誰を意思決定の権者にするか?」ということをうまく決められるのでしょうか? それとも共感しながらゆるくやっていく感じなのでしょうか?

國光 ビットコインやイーサリアムのPoW(プルーフ・オブ・ワーク、仮想通貨の安全性を確保するためのアルゴリズムの一種)という仕組みは、もともとは、誰もが参加できる完全直接民主制の感じに近かったんです。

入山 その非効率性が目立ちすぎた。

國光 いま、イーサリアムがイーサリアム2.0に進化しようとしています。その意思決定は、いろいろな手法をトライアルをしているところです。例えばPoS(プルーフ・オブ・ステーク)という手法は、みんなでやるのは効率が悪いから、意思決定をする人を21人に絞ろうというもの。

 では、21人をどうやって決めるかというと、イーサリアムをたくさん持って定期預金、ステーキングした量が多い順で決定します。「イーサリアムを多く保有している人だからイーサリアムにとって悪いことはしないはずだ」、という感じです。

入山 それに対する批判は出ないんですか?

國光 PoSだと、より多くのイーサリアムを所有している人たちが意思決定権を持つので、貴族主義じゃないかといった批判もあります。さらには少数トークンホルダーの意見が無視されてしまうという問題も指摘されています。

 そこで提案されている最新の意思決定方法は、DPoS(デリゲート・プルーフ・オブ・ステーク)です。これは、意思決定者になりたい人たちが「我々はイーサリアムのためにこんな未来計画を立てています、イーサをこうしていきます」といったマニフェストを出して、みんながそこに投票していくスタイルです。その人たちが持っているイーサの量と、投票されたイーサの量の合計値をとって21人を選んでいく、ということもはじまっています。

入山 なるほど。投票権はステークをいっぱい持っていようが少なかろうが同じ一票なんですか? あるいは、いっぱい持っている人はそれに応じた量の投票権を持つんでしょうか?

國光 これにもさまざまな議論があって、プロジェクトごとに異なります。ただ、今の主流でいくと「トークンを持っている量」です。ひとり一票ではなくて、トークン量に応じて票数が決まっています。

 おもしろいのが、マニュフェストの中に分配率を提示するケースも増えていて、自分に投票してくれるとバリデーター報酬の○○%をコミュニティーに還元しますなど、分配が多くなっていく傾向も出てきています。

 DAOを見るときには、インセンティブ設計とガバナンスの仕組みは分けて考えたほうがよい。さらに、それぞれ別の形で進化してきてというのが現状であり、おもしろいところだと思いますね。

入山 おもしろいなあ。意外と人間の本質のところですね。