DAOの本質は「インセンティブの民主化」

國光 DAOについて多くの人が勘違いしている点があります。DAOを「意思決定の民主化」だと思っている人が多いんですけど、あまり関係がありません。DAOの本質は、実際は「インセンティブの民主化」という面が大きいと思います。

 株式会社という組織を例にすると、これまでの会社は給料で雇われているだけのものでした。スタートアップが出てくるようになると、ストックオプション(会社が決めた価格で自社株を購入できる権利)が発明されました。すると、従業員が会社の一部のオーナーシップを持てるようになり、会社が大成功すると自分も金銭的にリターンが出るようになります。だから、主体性を持って頑張れる。それがスタートアップの大きな強みだと思っています。

 ただ、今回のDAOはインセンティブの範囲を従業員だけではなく、ファンや顧客など、従業員以外の関係者にまで広げていこう、ということが大きな特徴です。

尾原 例えばWeb2型のスタートアップの場合では、YouTubeあたりがわかりやすい例ですよね。

國光 はい。YouTubeは現在、時価総額ベースだと数十兆円くらいの価値だと思うんですけど、その富のほとんどは創業者や初期のVC、買収したGoogleに帰属しています。

 ただ、YouTubeの成功は彼らだけではなく、初期に投稿していた名もなきクリエイターや、ファン、それを記事にしたライター、ブロガーたちが頑張った結果です。それにもかかわらず、富の部分はごくごく一部の人に集中してしまっている。

 そのプロジェクトの貢献を初期からきちんと可視化、ルール化して貢献度に応じたかたちで分配していこうというのが、DAOによるインセンティブ革命です。

 そして、僕はDAOの最小構成には三つあると思っています。ひとつはやはり強いビジョン。次にビジョンに共感して集まったコミュニティー。そのコミュニティーが発行する独自トークンです。

入山 ビジョン、コミュニティー、独自トークンがひとセットになっているということですね。おもしろい。

尾原 コミュニティーのメンバーがビジョンの達成に向けて頑張るとコミュニティーが大きくなる。すると、独自トークンの価値も上がるし、価値が高まれば高まるほど、ユーザーもさらに集まるという夢のある成長をする。

國光 象徴的な例は、ビットコインとイーサリアムです。

 ビットコインは、ブロックチェーンを使った新しい通貨として発明されました。その当時、「ブロックチェーンは通貨だけでなくて、ありとあらゆる目的に使えるベース技術になるのではないか」というビジョンを掲げたのが、イーサリアムの考案者であるヴィタリックです。

 当時19歳の彼に共感する人が集まって、プログラマーはプログラムを書く、お金を出す人はお金を出す、マイニングする人はマイニングをする、宣伝する人は宣伝をする…と、当初6〜7人ではじまったプロジェクトが、みんなの活躍でどんどん大きくなりました。それが、今では2億人くらいになった。おもしろいのが、イーサリアムの今の価値は40兆円くらいですが、ヴィタリックが持っているのは全体の0.3%くらいなんですよね。残りは貢献したみんなに、その貢献に応じて幅広く分散している。

入山 なるほどね。

國光 ビットコインの初期、これは多分、サトシ・ナカモト(ビットコインの創始者とされる人物)がひとりでプログラムを書いていたから、完全にサトシ・ナカモト独裁体制で始まっているはずなんですね。いまはサトシ・ナカモトが消えて、完全な分散型組織みたいなものになっていますが、イーサリアムは今も引き続きヴィタリックの影響力が大きい。