5歳の豆太が病気のおじいさんのために1人で夜中にお医者を呼びに行く冒険譚である「モチモチの木」に、最近新たな説が出ているという。なんと、おじいさんが豆太を成長させるために仮病を装ったというものだ。これに対して著者は「深読みだ」と異議を唱える。本稿は、山本茂喜『大人もときめく国語教科書の名作ガイド』(東洋館出版社)の一部を抜粋・編集したものです。
モチモチの木は
一種の通過儀礼の話
モチモチの木
斎藤隆介
豆太は、小屋へ入るとき、もう一つふしぎなものを見た。
「モチモチの木に、灯がついている。」
けれど、医者様は、
「あ、ほんとだ。まるで、灯がついたようだ。だども、あれは、とちの木の後ろにちょうど月が出てきて、えだの間に星が光ってるんだ。そこに雪がふってるから、明かりがついたように見えるんだべ。」
と言って、小屋の中へ入ってしまった。だから、豆太は、その後は知らない。
(光村図書 小3)
モチモチの木がこわくて、夜中にひとりでせっちんにも行けないおくびょう豆太の話。
夜中、じさまがうんうん、うなっているのを知って、医者さまを呼びに行きます。
真っ暗なとうげ道を、はだしで泣きながら懸命に走る豆太。
やがて、医者様におぶわれて戻って行く時、モチモチの木に、灯りがいっぱいにともっているのを見ます。
それは、勇気がある子どもだけが見ることのできる山の祭りなのでした。
「モチモチの木」の原作は大判の絵本です。滝平二郎による切り絵が大変印象的です。「花さき山」も「八郎」も、斎藤隆介作品は、もはや滝平二郎の切り絵と切り離しては考えられないほどです。
夜中、モチモチの木がお化けのように枝をのばしている情景、その挿絵を怖いと感じた人も多いのではないでしょうか。
これは一種の、通過儀礼の話と言えるでしょう。「夜中に一人で医者を呼びに行く」という難題をクリアして、豆太は一歩大人に近づくことができました。
それにしても、この話は子どもの時、夜中に野外のトイレに行ったことのある人でないと、なかなか実感できないのではないでしょうか。
昔、田舎のトイレは家の外にありました。もちろん、水洗なんかじゃありません。下から手が伸びてきて、おしりを撫でられそうで……それはそれは怖かったものです。そもそも真っ暗な田舎の夜に、外を歩いてトイレに行くだけで十分怖かったです。