生前贈与は“争族”を招きやすい三大要因の一つだ。遺産の前渡しとなる「特別受益」を巡るトラブルが続出している。残された家族がもめないためにどうすればよいのか。特集『「普通の家庭」が一番危ない!相続完全ガイド』(全14回)の#8では、相続専門税理士の橘慶太氏に、特別受益の三つのポイントと生前贈与の注意点を解説してもらった。
争族「三大要因」の一つ
生前贈与でトラブル続出
「生前贈与」は親の介護への貢献や通帳の管理と並んで、争族を招きやすい三大要因の一つ。
典型的なケースは、子どもの新居購入の頭金を、生前贈与で援助することです。例えば母に2人の息子がいて、長男の新居の頭金を援助していたとしましょう(父は既に他界)。その後、母が亡くなり、2人の息子は遺産の分け方を巡って言い争いになります。
長男「法定相続分は2分の1だから、半分ずつ分けよう」
次男「兄さんは新居の頭金をもらっている。折半は不公平だ」
長男「確かに頭金をもらったけれど、生前贈与と相続は関係ないじゃないか。遺産は半分ずつだ」
この議論、どちらが正しいか分かりますか?正解は、次男の主張に軍配が上がります。
世の中の多くの人が、「生前贈与と相続は関係ない」と思っていますが、これは間違い。法律上、生前贈与で渡した財産は、「遺産の前渡し」扱いになります。遺産分割協議の際は、前渡し分を加味して分け方を考えねばなりません。
この前渡し分のことを「特別受益」と呼び、亡くなったときの遺産に特別受益を足して相続分を計算することを、「特別受益の持ち戻し」といいます。
ただし、遺産分割協議は両者の合意があれば自由に分け方を決めることができるため、次男が「頭金を持ち戻さなくてもいいよ」と納得するのであれば、遺産を折半しても問題ありません。
この特別受益を巡るトラブルが後を絶ちません。生前贈与を検討している人は、特別受益の三つのポイントを押さえておきましょう。