相続完全ガイド#12Photo:PIXTA

認知症患者数の増加に伴い、認知症に関わる相続トラブルも増加している。認知症によって意思能力がないと判断されてしまえば、遺言書や生前贈与などは全て「無効」になってしまう。相続対策を無効にされないためには何をすればいいのか。特集『「普通の家庭」が一番危ない!相続完全ガイド』(全14回)の#12では、相続専門税理士の橘慶太氏に、認知症の相続トラブルの対策術を解説してもらった。

「週刊ダイヤモンド」2022年4月30日・5月7日合併号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は雑誌掲載時のもの。

認知症だから遺言書が「無効」に!?
増加傾向の相続トラブルの対策法

 近年の認知症患者数の増加に伴い、認知症に関わる相続トラブルも増加傾向にあります。

 まず強調しておきたいのは、認知症を発症したら、相続対策はできなくなるということです。

 認知症になった人は法律上、「意思能力のない人」と扱われる可能性があります。

 意思能力のない中で行われた法律行為(遺言書を書く、生前贈与をするなど)は全て無効で、法的効力を持ちません。

認知症患者,医師Illustration by Saekichi Kojima

 とはいえ、認知症の症状には波があり、調子が良ければ遺言書を作ることも、契約書に署名押印をすることも可能です。しかし、これがトラブルの原因になります。

 例えば、自分にとって不利な内容の遺言書があった場合、「この遺言書を書いたときに、母は既に認知症と診断されていました。そのため、この内容は母の本当の気持ちではなく、無理やり書かされたものだと思います。よって、こんな遺言は無効です!」と裁判に発展するケースがよくあります。

 認知症の症状があったかどうかは、医師の診断書のほか、介護施設の介護記録や実際に介護をしていた家族の証言などから、総合的に判断されます。

 裁判の結果、遺言書が無効とされたケースも多数存在しますが、医師の診断書などの客観的な証拠がある場合がほとんど。証拠もなく、「母は認知症だったに違いない」と言い掛かりをつけても、基本的には通りません。