「あーち」の在り方を大きく変えた“コロナ”の襲来

「オリイジン」が「あーち」を訪れた今年(2022年)5月初旬の平日昼の時間帯は、100平方メートルほどのスペース「ふらっと・あーち*3 」に5組の親子が滞在していた。コロナ禍では、施設への参加は事前予約制で、午前と午後2時間ずつの入れ替え制、最大10人(乳幼児5組の母子・父子)の参加に制限しているという。ホームページの予約フォームからの受け付けだが、当日に空きがある場合は電話でも予約できるかたちだ。1週間のスケジュール表を見せてもらうと、どの日も、参加者の名前と連絡先がびっしりと記されていた。

*3 「ふらっと・あーち」は、乳幼児や小さな子どもたちが大人たちに見守られて遊べるスペース。

“コロナ”は、「あーち」の在り方を大きく変えた。

 子ども食堂や各種イベントの開催といったプログラムは、毎月発行の「あーち通信*4 」の紙面などで案内されるのだが、新型コロナウイルスの感染が急拡大した2020年3月は、その予定表に大きく赤い×印が付けられた。プログラムのすべてが急遽中止となったのだ。

*4 「あーち通信」は、「のびやかスペース あーち」の設立時から制作・配布されている(WEB上でも閲覧可能)。2022年6月号が通算202号となる。バックナンバーのPDFは、「あーち」ホームページの「リンク・倉庫・データ・バックナンバー」から読むことができる。

「その、2020年の3月から6月までが運営者としていちばんつらかったですね。『あーち』のことが好きで、自分の居場所として必要だから来ていた人に『ご来館できません』と言わざるを得ない時期でした。どうすれば、密を作らない状況で参加希望の皆さんの声に応えられるか――金曜日夜の『よる・あーち*5 』には、コロナ前は毎週100人近くが集まり、さまざまなプログラムを行っていたのですが、コロナがそれを無にしてしまいました。いまは、感染状況に合わせながら、来館者の人数を制限させていただき、可能な範囲でプログラムを実施しています。ここに来ることが当たり前だった人たちは『もとのスタイルに一日でも早く戻ってほしい』とおっしゃっています」(津田さん)

*5 「よる・あーち」は「のびやかスペース あーち」が金曜日夜に実施している3つのプログラム(あーち居場所づくり・あーち学習支援・あーち子ども食堂)の総称。「居場所づくり」や「学習支援」は、学生や地域の人たちが力を持ち寄って活動を作っている。「子ども食堂」は、灘区連合婦人会との連携で実施している。

 親と子がのびやかに時間を過ごしている「ふらっと・あーち」のあとに、「こらぼ・あーち」というスペースを見学した。そこは、音楽や美術のイベント、座談会やミーティングなども開かれる多目的空間だが、しばらくは誰も入室していないような静けさだった。津田さんが、「コロナの前はすごくにぎやかだったのですが……」と寂しげにつぶやく。

 ガラス窓から淡く差し込む陽差しを受けて、プレイヤーのいないグランドピアノがひっそりたたずんでいた。