大学施設「のびやかスペース あーち」が目指す“共に生きるまちづくり”

新型コロナウイルス感染症の広がりは、リアルな空間に多様な人が集まり、関わり合う機会を大幅に減らした。神戸大学が運営する “のびやかスペース あーち”もその変化の波を受けた社会教育施設だ。地域コミュニティに寄り添い、「子育て支援をきっかけにした 共に生きるまちづくり」の理念を掲げる同施設の現在進行形はどうなっているのか? ダイバーシティ&インクルージョンメディア「オリイジン」が現地を訪れ、創設者の一人である神戸大学教授の津田英二さんに話を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部、撮影/オリイジン)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「ダイバーシティが導く、誰もが働きやすく、誰もが活躍できる社会」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

子育て支援施設にとどまらない「あーち」という空間

 2016年に開業したJR摩耶駅で電車を降り、戸建てとマンションが並ぶ住宅街を北上すると、4車線の大きな通りに出る。その幹線道路と都賀川の清流がちょうど交差する場所に「のびやかスペース あーち」がある。神戸市立灘区民ホールの3階だ。

「のびやかスペース あーち*1 」(以下、「あーち」)は、2005年に神戸市と神戸大学の連携協定に基づいて開設された社会教育施設で、「子育て支援をきっかけにした 共に生きるまちづくり」を理念にしている。設立のきっかけは、「(市内に)子育て支援を担う施設を作りたい」という行政側の意向で、現在、神戸市のホームページには、「大学と連携した地域子育て支援拠点」として、8大学10カ所の施設が紹介されている。

*1 のびやかスペース あーち 住所:神戸市灘区鶴甲3-11 開館:火~土 休館:日・月・祝・第2火曜・年末・年始・お盆 開館時間:午前10時30分~午後4時30分(金曜日のみ午後8時まで開館) 事務局:神戸大学大学院人間発達環境学研究科ヒューマン・コミュニティ創成研究センター

 しかし、神戸大学の「あーち」は「子育て支援」にとどまっていない。幼い子どもたちと保護者をはじめ、シニア・外国人・障がいのある子どもや大人など、さまざまな人が集い、出会い、学び合う空間づくりを目指しているのだ。まさに、“ダイバーシティ&インクルージョン”の実現が「あーち」の目的だが、それは、施設創設者の一人である津田英二さんが社会教育を専門にした大学教授(神戸大学大学院人間発達環境学研究科)であることも理由のようだ。神戸市から大学に話が持ちかけられたときに、津田さんは手を自ら挙げ、「多様な人が集まり、お互いに学び合い、助け合うコミュニティができたらいい」と考えた。

 開館してしばらくの間は、乳幼児と母親の利用が多く、施設の利用者(以下、参加者)に偏りがあったものの、5年がたち、10年が過ぎて、障がいのある子どもと保護者、生きづらさを抱える若者といった参加者も目立つようになった。

「2005年の開館直後に重度障がいの小学1年生とその子のお母さんが毎日のように参加していました。その男の子は言葉をほとんど発しなかったのですが、来館する誰に対しても笑顔を振りまく子でした。あるとき、私がお母さんに、『どうして、毎日いらっしゃるのですか?』と尋ねたら、『夏の公園は暑いし、遊具もあまり利用できず、児童館もしっくりこないから』と。『あーち』が自分たちの居場所になったと喜んでいました」(津田さん)

津田英二◎神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。2019年より神戸大学附属特別支援学校校長を兼務。インクルーシヴな社会に向かう教育実践をテーマとして、研究活動、教育活動、社会的実践を行っている。専門は社会教育論、生涯学習論。単著に『知的障害のある成人の学習支援論』(学文社)、『物語としての発達/文化を介した教育』(生活書院)。「HRオンライン」連載「キャンパス・インクルージョン」を執筆中。