反対勢力のご機嫌取り
国民の妥協こそ低迷の元凶
報道では、「公約に目標額を記載しなかった理由には直接答えず、労働者や企業側の代表者らによる審議会での議論に委ねる姿勢を示した」(東京新聞6月16日)ということだが、「選挙対策」であることは明白だ。
「最低賃金1000円」に反対する中小企業経営者の業界団体である日本商工会議所、全国商工連合会は自民党の有力票田だ。機嫌を損ねたら大勝できない。配慮のために引っ込めたと考えるのが自然だ。実際、2カ月前、日本商工会議所は「最低賃金に関する要望」を政府に届けて、「最低賃金の引上げを賃上げ政策実現の手段として用いることは適切でない」と自民にくぎを刺している。
そう聞くと、「まあ、政治は選挙に勝たないことには何もできないんだからある程度の妥協はしょうがないだろ」と感じる人もいるかもしれないが、実はその“妥協の構図”に日本が30年賃上げできなかった原因がすべて集約されている。
政府は世論の支持が生命線なので「最低賃金引き上げます!」と国民ウケのいいことを盛んにアピールするが、自民党としては中小企業団体からの選挙支援も大事なので、その裏で「実際はそんなに上げませんのでご安心を」と賃金引き上げの足を引っ張らざるを得ない。この「選挙での勝利と引き換えに最低賃金の引き上げをあきらめる」という妥協を、自民党政治家が30年以上も続けてきた結果が、「安いニッポン」である。
この構造は、同じく有力支持団体の日本医師会と自民党の関係を思い出していただければわかりやすい。新型コロナ感染拡大で公立病院などに患者が集中しても「町医者」がノータッチという問題や、「2類相当」の扱いがいつまで経っても見直されず結局ウヤムヤにされたのは、日本医師会が自民党の有力支持団体だからだ。政治力学的に自民党政権は、日本医師会が嫌がる「医療改革」ができないのだ。
賃金もこれとまったく同じことがいえる。世界では最低賃金の引き上げは国民生活を維持するためのメジャーな経済政策だが、日本ではいつまで経ってもウヤムヤにされている。自民党的に有力支持団体の逆鱗に触れる「NG政策」だからだ。