米国による世界の平和、いわゆる「パクス・アメリカーナ」は終わりを迎えつつある。では米国に代わって中国が世界秩序を安定させるかというと、そうとも断言できないようだ。特集『賢者は歴史に学ぶ! 歴史入門』(全14回)の#7では、ローマ帝国と今の中国を比較して、「世界平和の担い手」としての違いを考えた。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)
「ローマの平和」は200年!
なぜそんなに繁栄したのか
パクス・シニカという表現が、国際政治の議論で使われるようになってきた。中国による平和という意味だ。米国による世界秩序の安定、すなわちパクス・アメリカーナが後退した今、米国に取って代わるのは中国なのか、という議論だ。
そもそも、何が世界に安定をもたらすのか。パクスの「本家本元」、ローマ帝国の歴史を見てみよう。
ローマの帝政は、紀元前27年の元首政(プリンキパトゥス)開始から、395年のローマ帝国の東西分裂までの約420年に及んだ。このうちパクス・ロマーナと呼ばれているのは、五賢帝時代までの約200年間だ。
この時期は古代ギリシアのペロポネソス戦争のような、地中海世界に広くまたがる戦争がなかった。特に五賢帝の2人目、トラヤヌス帝(在位98~117年)の治世期には、ダキア(現在のルーマニア)を属州化し、一時はメソポタミアの征服にも成功して、版図は最大に達した。
なぜローマ帝国は、これほどの隆盛を誇れたのだろうか?