「12兆元救済プロジェクト」で復活なるか

 5月23日、中国ではあまり前例を見ない会議が開かれた。全国経済安定化テレビ電話会議というもので、会議の参加者は10万人を超えた。この会議の中で、政策担当者は経済安定プロジェクトを実施することに言及した。この重大プロジェクトは「12兆元市場救済プロジェクト」と呼ばれている。12兆元は約245兆円に相当する。

 中国メディアの報道によれば、この「12兆元救済プロジェクト」の中身は次の通りだ。

(1)    年間税金還付総額が2兆6400億元。
(2)    国の融資保証資金1兆元。これにより、企業に5兆元の資金融資をもたらす可能性がある。
(3)    鉄道建設債3000億元。
(4)    特別債の規模は3兆6500億元で、8月中に使い切ることになり、2023年の特別債の規模2兆元前後も前倒しで投下される可能性があり、総投資額は5兆6000億元になる見通し。
(5)    商用貨物車向けの融資は900億元。
(6)    小規模・零細融資は4000億元。
(7)    航空業界への特別融資と債券発行は3500億元。

 以上の内容を合わせると、おおよそ12兆元前後のすごい規模の資金を放出して中国全体の投資を引っ張っていくことになる。しかも、できるだけ早く経済の正常化を取り戻すために、これらの支援策は2022年内にすべて投入するという。

 数字的に見ると、「12兆元市場救済プロジェクト」の資金出動規模は、2008年のリーマンショックに対して中国政府が打ち出した「4兆元市場救済措置」より3倍も大きい。しかし、中国では、この「12兆元市場救済プロジェクト」の詳細な中身に関する公式報道は、会議が行われた5月23日から1カ月たった今もまだ出ていないという点から、プロジェクト自体を懐疑的に見ている人も相当いる。

 さらに資金投入の評価に対して、異議を唱える人もかなりいる。中国のGDP(国内総生産) を見ると、08年は31兆4000億元で、21年のGDPは114兆4000億元だった。GDP規模自体が4倍近くも拡大したので、今度の資金投入は08年の規模より3倍も「大きくなった」とは言い難い。

 しかも、今回の資金投入の内容を見ると、GDPの押し上げを直接もたらす救済資金の「真水」が少ないので、果たして08年のような市場救済効果が期待できるのか。こうした疑問をぶつける人も少なくない。

 ネット上では、「2010年、国鉄集団鉄道建設債券は2100億元で、2021年はすでに3000億元規模となった。今年も3000億元にすぎなかったのだ。特別債においては、2019年は2兆5300億元、2020年は3兆7500億元だった。今年は3兆6500億元からスタートすると見た方がいい」とコメントする人もいた。

 視点を変えて考えれば、これらの指摘や疑問は、人々が、地に着いた市場救済の資金出動を期待していることを意味する。コロナ禍に翻弄された中国経済市場はいまや、まるで乾ききった土壌だ。たっぷりと浸透できる救済資金の真水が、一日千秋の思いで期待されている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)