これらの技術や経営資源を使って、パナソニックやソニーは世界でどうありたいのか、トップがもっと明確に示して欲しい。両社とも新規事業創出の組織をつくり、ユニークな事業をいくつも生み出し始めているが、どれもグローバルに両社を牽引していく事業に育つ道筋は見えていない。

 ソニーの場合、「動くもの」というところにヒントがあるのかもしれない。aiboの復活やEVの開発、最近ではドローン事業への参入など、エレクトロニクスから古き良きメカトロニクスの分野で、新しいものを見せ始めている。

 世間ではGAFAがもてはやされているが、プラットフォーマーの彼らにもハードウェアは必要だ。Amazon AlexaもAmazon Echoという端末がなければ使えないし、Facebookも大量にデータを処理するデータセンターにはハードウェアが必要である。こうしたハードウェアの開発は、日本やアジア地域の企業のハードの力をなくしては実現しない。

 東芝の島田太郎社長が指摘するように、GAFAの弱点はハードにあるといってもよい。現在は、IoTのサプライチェーンの中で、ソフトウェア領域を担っているところがうまみを持っているが、ハードウェア領域の会社がプラットフォームリーダーになることも、理論的には不可能ではないはずだ。

 パナソニックもソニーも、ハードがつくれるという強みがある。ただし、ハードウェアの機能性能だけで勝てるほど今の市場は甘くない。たとえばパナソニックの車載電池事業も、規模を追う一方で、「世界でなにがなんでもナンバーワンの電池サプライヤーになる」という本気度は、生産設備の投資からはうかがえない。そこは、「いたずらに規模を追わずに技術で差別化を」となってしまう。

ハードだけが競争力ではない
「21世紀の水道哲学」が必要だ

 むしろここで、「世界で最も安価に、大量にリチウムイオン電池を供給できるのはパナソニックだ」と、「21世紀の水道哲学」を主張してもらいたい。グローバルに部品や技術を組み合わせ、分業によって製品をつくり出す今日、とりわけ電池のような部品ビジネスで自社しかつくれないユニークな製品というのは、むしろ製品価値を下げるかもしれない。

 EVのバッテリー供給を受ける自動車メーカーにしてみれば、様々な企業から複数購買をしたいはずである。1社の技術に縛られれば、サプライヤーに肝を握られてしまうからだ。そうすると、BtoBの部品事業は標準化を指向するようになる。日本が得意な自社しかつくれない部品は、もはや非標準の使いにくい部品に過ぎない。シャープが液晶の外販も視野に入れて建設した堺コンビナートで失敗したケースも、同じであろう。