苦境期におけるソニーと
パナソニック・シャープの決定的な違い

 これまで、パナソニックとソニーを同列に論じてきたが、今ソニーの経営は絶好調なのに対しパナソニックは不調であり、比較にならないのではないかとの批判があるかもしれない。しかし、パナソニックの津賀一宏社長やソニーの平井一夫社長がそれぞれ就任した2010年代の始めは、両社の立場を入れ替えて同じことが言われていたのを忘れてはいけない。

 パナソニックの現在の問題の1つを遡るとすれば、2010年代始めにV字回復をして、メディアにもてはやされたことにあるのではないかと筆者は考える。同様に、当時V字回復した企業にシャープがある。パナソニックやシャープがV字回復する中で、ソニーだけが経営の回復が遅れ、「さよならソニー」「ソニーだけが凋落」とメディアに書き立てられ、当時の平井社長を「レコード屋の兄ちゃんにソニーの経営は無理」とまで罵る記事も多く見受けられた。

 一方で、V字回復したパナソニックやシャープの経営は素晴らしいともてはやされたのである。しかし、考えて欲しい。利益とは売上から支出を引いたものである。支出には将来の事業への投資分も含まれる。

 具体的にいえば、当時のパナソニックやシャープは研究開発投資を削減する方向に動いた。一方ソニーの平井社長は、エレクトロニクス事業の選択は行ったものの、残した事業への研究開発投資は赤字の中でも続けてきたのである。

 研究開発は未来の収益源である。今期の経営数値には表れないが、確実に将来の経営を左右するものである。そうした未来の収益源を減らせば、見かけ上経営はV字回復する。大抵の場合、企業のV字回復は将来の利益の先取りでしかない。現在の楠見パナソニックに求められるのは、短期的な見かけ上のV字回復ではなく、長期的な組織能力の向上であり、将来への投資を疎かにしない経営であろう。

 最後に、パナソニックとソニーの両社に苦言を呈するとすれば、経営を建て直した後、パナソニックはおそらく数年後の、ソニーは足もとの課題として、「今後何をして、どのようにグローバルな競争の中で戦っていくのか」というビジョンを明確に示していくことが、まだ不十分かもしれない。

 パナソニックもソニーも、日本を代表する大企業である。しかし、グローバルで見れば、時価総額は決して上位に食い込んではいない。とはいえ、両社には優れた技術の蓄積がある。パナソニックといえば、松下幸之助の商売のイメージが強いかもしれないが、高い技術開発力を持ち、他社にない技術的優位性をいくつも持っている会社である。