その後、5年の間に幾つかのきっかけがあって、母は子どもたちにとって意外なほど心身の機能が衰えた。現在、かつて父がお世話になったのと同じ高齢者向けの施設に入所している。入所の際の費用は彼女の預金で賄った。

 今のところ、母は身体機能が衰えたものの、認知機能に関しては後見を要するような状態にない。また、今後仮に彼女の認知機能が衰えても、監督人を付けられてしまう任意後見に移行することはできるだけ避けたいと思っている。

 宮内氏によると、山崎家と同様の契約(移行型の任意後見契約)を持っていても、任意後見に移行せずに、代理人である親族が本人の財産を管理することで足りる場合が9割以上だという。

山崎家の場合、「金融資産の整理」
父が遺した証券口座を見て後悔

 金融資産の整理についても経緯を説明しておこう。

 預金は、父から母が相続した預金を母の預金口座に統合すればよいので簡単だった。

 父が持っていた証券会社の口座には、生前父が楽しみを兼ねて投資していた個別株が数銘柄と、毎月分配型などの投資信託があった。筆者は、自分が投資にコメントする仕事をしていたし、父の楽しみに介入しない方がいいという思いがあって、父の証券口座については生前にチェックもアドバイスもしなかった。しかし、彼の残した口座の残高明細を見て息子として少々後悔した。

 もう少し合理的に運用していればもっと増えていたはずだという思いもあった。ただそれ以上に、このようなポートフォリオでは楽しくなかっただろうと、個別銘柄についても投信についても思った。生前のかなり早い段階から、なぜ父親に運用の方法をコーチしなかったのかということは、彼の息子としての筆者の後悔の一つだ。父は、キャッチボールの相手もしてくれたし、囲碁も教えてくれたのだから、恩返しに投資の方法くらい教えるべきだった。

 読者も、親御さんの金融資産の状態を見てあげてほしい。誇張でなく「息を飲むような状態!」になっている場合が少なくないはずだ。

 さて、父が持っていた有価証券は全て売却して、母が同じ証券会社に持っていた口座に現金を移動した。ネット証券に母の口座を開いて資産を移管しようかとも思ったが、母が高齢のため口座の開設手続きがいささか面倒だったし、父が使っていた証券会社なので、そのまま使う事にした。