数ある原因のなかでも、加齢と関係があるとされているのが、脳に情報を一時保存する「短期記憶能力」だ。

「60代以降になると、その性能はゆるやかに落ちていきます。短期記憶能力が低下すると、電話番号や短文を記憶して、すぐ紙に書く、などの作業が難しくなるのが特徴です。そのほか、関連性のない新しい知識を定着させる能力も年齢とともに下がるといわれています。ただ、後者に関しては7~8歳でピークを迎えるので、それ以降は10代でも50代でも大きな差はありません」

 このように、年齢と記憶力低下の関係は一部で認められているのも事実。その一方で、実際の能力は下がっていなくても、個人の“認識や思い込み”が記憶に影響するケースもあるという。

「その一つが、過去の記憶に対する認識のズレです。たとえば“20歳の頃の思い出”を語るとき、35歳の自分と50歳の自分とでは記憶の鮮明度に差がありますよね。50歳になるまでに新しい知識や情報を得た分だけ忘れるのは自然なことですが『35歳の頃に比べると昔の出来事が思い出せない』と感じたときに、記憶力が下がっている、と認識してしまう人が多いのです」

 また「自分はもう年だから」という諦めも、自らの記憶力を下げる可能性もあるという。

「高齢者と若年層を対象にしたある実験(*)では、『加齢によって記憶力が下がる』と思い込んでいる高齢者は、そうでない高齢者に比べて20%も記憶力のパフォーマンスが下がった、という結果が出ています。ちなみに後者の記憶力は、若年層と同じだったそうです」

(*)…出典: Thomas AK, Dubois SJ. Reducing the Burden of Stereotype Threat Eliminates Age Differences in Memory Distortion. Psychological Science. 2011;22(12):1515-1517. doi:10.1177/0956797611425932

 年齢を理由に悲観しすぎるのも考えもの。せめて思い込みで記憶力を下げるのは避けたいところだ。