記憶定着のカギを握る
アウトプットの習慣化

 長く生きていればある程度の忘却は避けられない。しかし、適切に“記憶するスキル”を磨けば、必要な情報を忘れにくくなるという。そこで畔柳氏に、効率的に記憶をするテクニックを聞いた。

「何かを覚えるときは、最初に『記憶する対象』を明確にしてください。たとえば英語を学ぶ場合は、自分が伸ばしたい分野を明らかにします。聞く力、文章力、話す力のうち、文章力を身に付けるなら、英単語のスペルも覚える必要がある。このように、覚える対象を明確にすると記憶への道筋が見えてきます」

 記憶の対象を確定せずに学びはじめると、効率的に記憶できずに挫折しやすくなるという。当然のことに思えるが、対象を定めずにインプットに取り掛かる人は少なくない、と畔柳氏は話す。

「次に『覚える』段階に入ります。その際、インプットだけでなく、アウトプットの練習も一緒に行うのがコツ。覚える対象によって適したアウトプットの方法は異なりますが、英単語や漢字を例にするなら、テストの習慣化がおすすめですね」

 通常、テストは個人の理解度や成果を測る際に受けるが、自らテストをすると“記憶の定着”にもつながる、と畔柳氏。ただし、テストのタイミングは一通り覚えてからではなく“覚えている途中”に行うのがポイントだという。

「インプットに使う期間や時間を設定し、それを超えたらテストをしましょう。インプットに長い時間を使うよりも、テストを何度も受けるほうが記憶の定着につながります。英単語や漢字ならば、見本を見ながら一度書き、次に見本がない紙にその単語を書く、というテスト方法が適しています。また、普段から練習をしておくと、本番の試験でもスムーズにアウトプットできるのがメリットですね」

 テストの実施と記憶の定着効果は、2011年に米・パデュー大学のジェフリー・カーピック氏が発表した論文(**)で明らかになった。残念ながら、定番の記憶法だった“見本を見ながら何度も文字を書く方法”は、あまり効果が得られないという。

(**)… 出典:Karpicke,J.D.;and Blunt,J.R.2011.Retrieval Practice Produces More Learning than Elaborative Studying with Concept Mapping.Science 331(6018):772-775

 そのほか、これまでに蓄積した知識を活用して記憶する方法もある、と畔柳氏は話す。

「とくに自分の中にベースの知識がある分野ならば、新しい情報と既存の知識を比べて、双方の共通点と相違点を見つけていくと、効率的に覚えられます。この方法は、多くの経験や学習を経てきた中高年に向いているテクニックですね」

 まさに亀の甲より年の功……知見がある分野も、積極的に新しい知識を取り入れていくのが吉だ。