選挙で敗れた野党が非常対策委員会体制に移行することは珍しくないが、選挙に勝った与党が非常対策委員会に移行するというのは極めて珍しい出来事だろう。しかし、このような化粧直しで支持率が回復するわけではない。

 国民の力の崔在亨(チェ・ジェヒョン)革新委員長は、尹錫悦大統領には「精製された言葉と謙虚な姿勢が必要だ。謙遜を失う瞬間、国民の心は離れる。前政府のせいにするのは全く意味がない。国民にとってはビジョンを提示して未来を開いていくのが大事だ」と指摘している。

日本は資産現金化後の対応を
真剣に検討すべき時期

 尹錫悦政権がこのような状態の時に、資産現金化の問題がクライマックスを迎える。この問題で日本政府の立場は明白であり、元徴用工側をいかに説得するかが鍵である。

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 しかし、大法院における資産現金化の決定が目前に迫っている中、元徴用工側が譲歩する可能性は極めて低い。韓国政府が国民の支持を失い、しかも政権による国民との意思疎通の不足や謙虚な姿勢の欠如がその主要な要因の一つとなっている現状で、大法院の決定を覆す施策を打ち出せる可能性は高くないであろう。

 日本政府として、資産の現金化が行われた後の対応を真剣に検討しておかなければならない時期に来ている。その場合、どのような具体的報復を行うかだけでなく、韓国政府との関係をどうするか、日米韓の協力体制をいかに維持していくかも含め、総合的な対応が必要となるだろう。

 文在寅政権の負の遺産が日韓関係を危機に陥れている。しかし、尹錫悦政権も前政権のせいにするのではなく、これにいかに対応できるか、今後の尹錫悦政権の動向を占う上の試金石となるだろう。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)