仕事ができる人に共通する“グレーな領収書の切り方”、佐藤優が語る「水がキレイすぎても魚は死ぬ」Photo by Wataru Mukai

自民党議員の裏金、使い道は「飲み食い」だった――。佐藤優が真剣に語る「会食の効用」はビジネスシーンにもそのまま当てはまる。なぜ仕事ができる人ほどプライベートの支出を経費で落とすのか。どうしてガールズバーで領収書を切られると冷めるのか。「お金」を共通項として、政治とビジネスの深層を探る。(構成/石井謙一郎)

この連載は、派閥論の名著と名高い渡辺恒雄氏の『派閥と多党化時代』(雪華社)を復刊した『自民党と派閥』(実業之日本社)を事前に読んでもらったうえで取材をしています(一部を除く)。

自民党議員の裏金は「5945円の牛丼」になり、有権者の胃袋へ

――渡辺恒雄さんの著書『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』(実業之日本社)は、1967(昭和42)年に出た本の復刊です。令和のいま、この本を読む意義は何だと思いますか。

 大きな意義があります。時代によって日本の政治の構造が変わっても、人間の行動原理は変わらないことがわかるからです。人間は常に権力を求めていくし、目的を達成するためには仲間を利用しなければいけない。そして、本気で権力を求めれば、争いや裏切りが必ず起きるわけです。

 現在とは違う点もあります。日本の政治がだいぶ綺麗になったことです。この本の時代より、動く金が3桁少ないかもしれません。

仕事ができる人に共通する“グレーな領収書の切り方”、佐藤優が語る「水がキレイすぎても魚は死ぬ」『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』(実業之日本社)1800円(税別)

 先般の政治資金規正法の改正で、パーティー券の購入者を公開する基準額で議論になったのは、それまでの20万円から10万円に下げるか5万円に下げるかでした。この本には、自民党で河野派を率いた河野一郎自身の証言として、日本自由党の幹事長時代に、児玉誉士夫が持ってきた手のひら一杯のダイヤモンドを売り歩いて金に替えたという話が出てきます。少なく見積もっても、億単位の話でしょう。額の違いというより、質的に違うレベルの金です。

――総裁選で交わされた密約の話も出てきます。

 1959(昭和34)年の総裁選で、岸信介、大野伴睦、河野一郎、佐藤栄作の4人が交わした誓約書を紹介していますね。岸総理のあと、大野、河野、佐藤の順に政権をたらい回しにするという約束で、実際には反故にされました。

 現在の政治家は、こうした誓約書や念書など残さない点も、当時と異なります。念書を作る理由は、反社のような暴力装置が立会人になって密約を担保するからです。反社との関係に厳しくなった現在では、とても通用しない話です。

 総裁選で票を得るために女性をあてがう話も出てきますが、時代感覚が変化しました。いま「女性と同衾できます」なんて囁かれたら、どんなに鈍感な人でも逃げていくでしょう。碌(ろく)でもない謀略であることが間違いないからです。

――先ごろ、政治資金規正法が改正されました。議論が尽くされていないと感じるポイントはありますか。

 一番は、自民党の議員が裏金を何に使っていたのか、という問題です。あの程度の金額では買収などできませんから、おそらくは飲み食いです。それも、銀座や六本木で豪遊するのではなく、支援者を5つ星ホテルのカフェやレストランなどで接待しているんです。