「全国一律の値上げ」ではなく
「店舗閉鎖と超都心店値上げ」を選んだ理由

 その際に経営陣が注目したのが、全国チェーンのガストの場合、同じ業態でも地域によって異なる顧客構造になっているという点のようです。

 決算発表の話をまとめると、ディナーと深夜時間帯売り上げが減ったこと、子どもの感染を恐れたファミリー層の売り上げが減少したこと、自宅での食事を選ぶ人が増えたことなどは全国共通の動向だといいます。

 一方で、インフレによる生活防衛意識は地方都市になるほど高い傾向があると言います。これは経済評論家として活動している私の耳に入ってくる、他の企業の情報とも一致します。要するに車主体の地方都市生活ではガソリン代の上昇のインパクトが大きく、消費者が他の支出を削って生活防衛するためには外食を減らすのが手っ取り早いのです。

 また別の地域要素として「都心部のオフィス街で売り上げ減少がみられる」のはリモートワークの定着の影響が高いようです。つまり、大都市圏でもオフィスなのか住宅街なのかで減少幅や減少要因が違うことになるわけです。

 冒頭にお話ししたガストの大量閉店と超都心店値上げは、この状況から経営陣が編み出した「それぞれの消費者に一番受け入れられやすい値上げ戦略」だと考えられます。

 値上げラッシュによる売り上げ減の影響を最も大きく受けている地方のロードサイド店舗に関しては、不採算店を思い切って閉鎖します。構造的に需要が減った場合には需要回復を祈るよりも、店舗整理したほうが全体の利益回復は大きいものです。

 すかいらーくグループのグループ総店舗数は2022年6月時点で3085店です。その約3.2%に当たる100店舗の閉鎖は、大規模ではありますが妥当な数字ではないでしょうか。

 そのうえでガストでは異なる価格を3種類設定します。値上げラッシュが生活を直撃する地方店舗では「通常価格」、首都圏、中京圏、関西圏など大都市圏では「都市型価格」、そして東京の山手線圏内では「超都心価格」というわけです。

 地方都市は、不動産価格や最低賃金も大都市圏よりは安い。だから値上げ幅が少ない「通常価格」にする。それでも売り上げが少ない地方店では、商品点数を減らす形でさらに生産性を上げるところまで踏み込もうとしています。

 一方で、山手線圏内の超都心店では単に値上げをするだけではなく、超都心店としてのいわゆるプレミアム商品中心にメニューを絞り込むといいます。

 すかいらーくグループによれば、今進んでいるのは「食の多様化」です。都心店では郊外店と違いファミリーのディナー需要は少ないけれども、おひとり様が手に届くぜいたくを楽しむ需要はある。ディナーだけでなく、午後にファミレスで飲み物と軽食を取りたいといった需要も多い。「超都心店の顧客がガストに求めているのは必ずしも安さだけではない」という経営判断でしょう。

 要するに今回ガストで行われる店舗閉鎖と値上げは、経営戦略的には実に理にかなっているのです。