最大のリスクは
「消費者が受け入れてくれるかどうか」

 では、どこにリスクがあるのでしょうか。それは先ほども述べたように「最終的に、うまく消費者に受け入れられるのかどうか?」という一点のリスクに集約されるでしょう。

 外食業界では値上げ戦略の失敗例として2017年の「鳥貴族」の事例が広く共有されています。それまで全品税込み308円均一を売りにしていた鳥貴族が、人件費や原材料費の値上がりを背景に全品327円へと引き上げたところ、来店客数が15%も減少したのです。

 このときは鳥貴族が低価格居酒屋として庶民の味方のイメージが強かった一方で、業界内で鳥貴族だけが単独で値上げに踏み切ったことで一種の風評被害が起きたのではないかと私は見ています。

「われわれの味方だと思っていたら値上げだって!」とファンが少し怒ったわけです。

 実は鳥貴族はこの4月末にふたたび値上げをして今の価格は一律350円なのですが、この値上げはそれほどニュースにもならず、しかも月次報告を見る限り業績の足を引っ張っているようにも見えません。

 実は、庶民の味方という点でイメージが共通する回転ずしの「スシロー」や「くら寿司」でもガストが超都心店価格を打ち出す前から同様の都心店価格を始めています。しかし、こちらも時節柄でしょうか、消費者には普通に受け入れられていて都心の店舗は相変わらずの賑わいを見せています。

 それらの要素から予想すれば、すべての商品の価格が値上がりする中で、地域別にそれぞれ適正な価格を設定することで顧客の懐にあった価格、顧客のニーズにあったメニューを模索する今回のガストの新戦略は「難しいけれどもうまくいくのではないか」というのが私の予測です。

 今期は店舗閉鎖と先ほど述べた給与計算の見直しで一時的にすかいらーくグループの年間業績は純利益ベースで赤字になりますが、その一時要因を除いて利益がプラスになる構造を経営陣は選択しました。その戦略の成否、見守っていきたいと思います。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)