値上げ幅が大きくなっても
コストコと業務スーパーは競合しない

 とはいえ、たくさん買って節約するという顧客から見れば、値上げがきついコストコから値上げがマイルドな業務スーパーへと需要が流れたりしないのでしょうか? ここが面白いところですが、コストコと業務スーパーは実質的には競合しないのです。

 実はアメリカでも日本でもそうなのですが、コストコは中流の上から富裕層の顧客が利用する小売店です。会員制というとおり年会費4840円を払ったうえで、自家用車に乗らなければならない距離にある倉庫店まで出かけて買い物をする。しかも、お店に置いてあるのはPBを除けば、主に有名ブランドの商品ばかりというのがコストコの特徴です。

 一方で、業務スーパーは基本的に業務用の仕入れを想定した品ぞろえのスーパーです。それが、店舗数が増えた結果、住宅街にも進出してきました。そして実は、業務用の世界では一般のスーパーマーケットと少し売れ筋商品が違うという特徴があります。

 たとえば、一般のスーパーで売れ筋の野菜は国産が中心です。中国産の野菜も安く売られていますが、売れ行きを見ると国産の方が勢いがいい。とはいえ、貿易統計を見ると中国産の野菜は結構輸入されています。どこで消費されているのかというと、中国産野菜は圧倒的に飲食店で使われています。

 そして業務スーパーで人気の冷凍野菜を裏返してみるとわかるのですが、その多くは原産国が中国になっています。それが業務スーパーでは売れている。ここにコストコと業務スーパーが競合しない理由が隠れています。

 業務スーパーの主要な顧客層は、実は庶民です。生活費を切り詰めたいニーズがあって、大手のスーパーマーケットよりも業務スーパーで買い物をしたいという層がここに流れてきます。

 実は経済の専門家から見れば、中国産の野菜というのは決して悪い商品ではありません。かつては品質が悪かった時期もあったかもしれませんが、現在では日本の商社や現地の生産者が日本向けの野菜をきちんと管理して育てているので、品質や安全性は向上しています。

 しかし一般のスーパーでは、一種の風評で国産に押されている。その観点で言えば、業務スーパーで安い冷凍野菜を買う顧客は、実は賢い買い物をしているとも言えるのです。

 値上げラッシュの日本にあって、まだ生活水準は豊かな方できちんとした水準の商品をできるだけ安く買いたい顧客層は、コストコを選びます。そして商品が値上がりしても収入はそれほど増えない顧客層は、賢く業務スーパーで乗り切ろうとします。

 どちらの小売店も値上げラッシュの救世主であり、それぞれを利用する顧客層はそれぞれ違う事情から異なるお店を選んでいるというのが実情だということなのです。