医療機関と就労支援機関と企業の連携が重要

 障害者の「職場定着率」を障害種別に見ると、知的障害者・身体障害者に比べて、精神障害者の数字が低くなっている*15 。「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」(厚生労働省・東京労働局)も、講座開設の理由として、「精神・発達障害者の職場定着は、必ずしも順調ではありません。職場定着に至らない要因は一人ひとりさまざまですが、障害があっても、その特性を踏まえ、希望や能力、適性に応じて活躍できることが普通の社会、障害者と共に働くことが当たり前の社会を目指していく必要があります」とメッセージしている。

*15 「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年、JEED)より。

清澤 精神障害者の定着率は、就労1年後で49.3%*16 ――つまり、半数の方が辞めてしまうのです。「“精神(に障害のある方)”は、仕事が続かない」と言われますが、わずか3カ月未満で離職した方の退職理由として、「労働条件が合わなかった」「業務遂行上に課題がある」というものがあります*17 。この原因は、障害のある方ではなく、どちらかと言えば、就労支援機関と企業側にあるでしょう。また、3カ月以降1年未満で辞める方も多く、その理由としては「障害・病気のため」というものが目立ちます。当然のことながら、精神疾患は、医療行為と切り離せません。ほとんどの方が定期的な通院を必要としています……ということは、各企業が、就労支援機関の先にある医療機関とどう付き合っていくかも重要になります。企業の障害者雇用の担当者や専門スタッフは、就労支援機関に「医療機関との連携はどうなっていますか? 主治医の先生は就労に対してどのような見解ですか?」と聞いてみるとよいでしょう。精神障害のある方の就労のカギが医療機関であり、実は、医療機関自体が企業に直にコンタクトして就労支援をしているケースも増えています。私もその一翼を担っています。

*16・17 いずれも、「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年、JEED)より。

 清澤さんが代表を務める一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会では、精神・発達障害者の就労支援のゼネラリストである「就労支援士(Employment Specialist)」の資格を認定している。

清澤 「就労支援士」は、ジョブコーチ(職場適応援助者)*18 の役割も担うことができる人材で、精神障害のある方の就労支援全般を担うことのできる “トータルコーディネーター”です。ジョブコーチは主に障害のある方の就労後の職場適応期の支援を行います。一方、就労支援士(ES)は就労前のアセスメント・プランニング、就労継続に向けたトレーニングの実施から就労後の職場定着だけでなく、就労後のキャリア支援といった就労支援の一連の流れを行いつつ、企業に対して精神・発達障害者の雇用・雇用定着のコンサルテーションを行います。就労支援士(ES)が就労支援を行うことで、支援者が支援機関ごとに変わるといったデメリットを防ぐことができます。最近は、企業の人事部に在籍している方の受講も増えており、その方たちが障害者雇用の専門スタッフになっていくケースもありますね。

*18 ジョブコーチは、職場に出向いて、仕事の進め方やコミュニケーションなどの職場で生じるさまざまな課題の改善を図るための支援を行う者。(厚生労働省資料より)
参考記事 障がい者と企業を結ぶ「ジョブコーチ」の現在形 障がい者雇用で「ジョブコーチ」に求められる役割(いずれも、ダイバーシティ&インクルージョンメディア「オリイジン」より)