ネットにあふれる擁護の声、慌てる上海市

 ネットには、次のような投稿が寄せられている。

「政府はロックダウンという非常時に住民が食べるものなく飢えていたという特殊な状況を顧みず、良心的な企業を罰することは本末倒置だ」
「パリバゲットは当時、周辺住民の食料不足の問題を解決した。緊急避難の原則でパリバゲットに対する処罰を取り消すことを提案する」
「58万元のペナルティーを科すと同時に、58万元の奨励を提供すべきだと提案したい。パリバゲットはあの時期に値上げせず、普段通りの価格で販売していた。立派なことだ」

 さらに、キャッチフレーズまで生まれた。「上海皆苦、巴黎貝甜」や「衆生皆苦、巴黎貝甜」(上海市民=大衆がみんな苦しんでいるとき、パリバゲットの行動は余計に心に染みる)と、パリバゲットに対する罰金の不公平さを強調し、同社への支援を呼びかけた。

 ロックダウン期間中に実際、パリバゲットの88元のセット商品を購入したことのある倪さんは、SNSにその実体験を投稿した。

「セット商品にはトーストやマーブルなど5種類のパンがあり、価格も通常の店で購入するのと同じだった。貴重な食品を入手できたので、一回で食べきってしまうのがもったいないと思い、冷蔵庫で凍らせて数回に分けて食べた。しかも、解凍後の食感も悪くなかった」

 このような体験をしているから、倪氏はこれからもパリバゲットを応援するために同社のパンを引き続き購入したいとも話している。

 こうしてパリバゲットの商品を買って同社を支えようという動きが自然に巻き起こった。上海をはじめ、各地のパリバゲットの店舗前に長蛇の列が出来、店内の商品はあっという間に売り切れた。

 億単位の消費者を敵に回してしまった上海市市場監督管理局は、あわてた。

 9月3日、同局は「お返事」という形で、「パリバゲット事件に対して、事件処理を担当する部門は企業の違法行為の継続期間、事件にかかわる金額等の実情を考慮し、与えた処罰はすでに『食品安全法』の法定最低幅に基づく軽微なものにした」と弁解。さらに、「現在、事件はまだ法定行政不服審査および行政訴訟権利救済期間中であり、企業は法定手続きを通じて異議を申し立てることができ、われわれは積極的かつ適切に対応策を講じる用意はある」と事件を穏便に解決したい態度を見せている。

 中国のネットでは、今回の罰金処分事件は、最大の敗者が上海市市場監督管理局で、どんでん返しで勝者になったのはパリバゲットだという声も出ている。しかし、なぜ上海の行政当局はもっと上手にやれないのだろうか。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)