日本の弱みを握ったベトナム政府
日本に見切りをつけ始めている

 さて、こういう状況を踏まえたら、主権国家としてまずやるべきは自国民の保護なので、ベトナム政府としては日本政府に断固抗議して、「ベトナム人技能実習生への人権侵害に厳しい措置を」と強く求めるはずだ。

 しかし、なぜか今回はそういう話にはならず、「免税」という話になっている。これは筆者の疑り深い見方だが、暴行だとか人権侵害というややこしい話にはそれほど目くじらを立てない代わりに、「免税」を認めてよ、という感じで交渉のカードに使っている可能性があるのだ。

 ベトナム政府としても、労働者の最大の送り先である日本とモメてもメリットはない。だったら、「人権侵害」のカードをチラつかせながら、ベトナムの国益にもつながる「労働者の受け入れ拡大」や「免税」を勝ち取った方がいい、という判断になるのは当然だろう。

 ただ、もし本当にこのような「駆け引き」があったとしても、そう遠くない未来に「ベトナム人労働者の人権問題」は炎上してしまう気もする。

 ベトナム政府にとって、日本の労働市場は年を追うごとに魅力的ではなくなってきているからだ。

「魅力ない賃金、離れる人材 ベトナム人技術者の視界から消えた日本」(日経ビジネス 21年12月13日)には、日本のITベンチャーで働いていたベトナムの技術者がそこを退職して、本国に帰った後、日本の3倍以上の高賃金で英国の会社へ転職したケースが紹介されている。記事に登場する有能なベトナム人技術者から見た「日本」はこう記されている。

『残業を目いっぱいしても月収は20万円をわずかに超える程度。近年は、ホーチミンや首都ハノイの経済発展が著しく、日本とベトナムで収入に大きな差はない』(同上)

 つまり、ちょっと前にお隣、韓国にまで抜かれてしまったことで大きな話題になった「低賃金」によって、ベトナム人労働者の皆さんが続々と日本に見切りをつけているのだ。これを受けて政府も徐々にではあるが、「日本離れ」のシフトを組み始めている。