「オンライン脳」には、致命的なリスクがある

 しかし、対面することなく何事もオンラインで済ませてしまう“新しい日常”の影響は、「物足りない」「おもしろくない」「つまらない」「寂しい」といった漠然としたマイナスの印象だけには、決してとどまりません。オンラインコミュニケーションの氾濫は、人と人とのコミュニケーションにおいて、多くの人が思っているよりもはるかに深刻な、“致命的”ともいうべき大きなリスクをはらんでいる、といわなければなりません。

 今日ただいまこの社会で起こっている問題は、たんなる「よくない感じ」ではなく、明らかに「よくない現象」「よくない悪影響」であると分かってきています。それは、オンラインコミュニケーションでは、「脳がほとんど使われない」「ボーッとしているのと同じ」「脳の活動を抑制する」「心と心がつながらない」「共感を生んで協調関係を築くことができない」「子どもの成績が下がる」..こんな研究結果が次々と出ているのです。人びとは、いま日本に蔓延(まんえん)するオンラインコミュニケーションのリスクに、あまりにも無自覚で、その悪影響を軽視しすぎている。――このことに私は、非常に強い危機感を持っています。オンラインコミュニケーションは、どこが、どのように問題なのでしょう。このあと、私たち東北大学が行った緊急実験を通じてこの問題を明らかにしていきます。

「対面」と「オンライン」のコミュニケーションを比較する緊急実験

「人と人が直に顔を合わせて会話する『対面コミュニケーション』」「直に顔を合わせることなく会話する『オンラインコミュニケーション』」この2つを、はたして「質が変わらない、同じように扱ってよいコミュニケーション」と見なしてよいのでしょうか?

 私たちは、この2つのコミュニケーションにおける「脳の活動」を定量的に評価して比較し、違いを確かめる緊急実験を行いました。こんな実験です。

 実験期間は2020年6月からおよそ半年間。それより前の4月7日には7都府県で新型コロナで初めて「緊急事態宣言」が出され、16日に全国へ拡大。5月14日に39県で解除、25日に東京・首都圏3県・北海道を最後として全国で解除となった直後のスタートでした。実験した場所は、私が所長を務める東北大学・加齢医学研究所の実験室です。東北大の学生の協力を得て、実験室には、同じ学部の同じ性別の学生5人1組として全5組(5人×5組=25人)に集まってもらいました。各人には、どんなことに興味があるか事前にヒアリングしておき、これを参考に、集まってもらった時点で会話のテーマを設定します。5人のうち4人が興味を持っているが1人はまったく関心がないというテーマは捨て、たとえば5人全員が「映画好き」「映画をよく観る」であれば、「好きな映画について語り合う」をテーマと決めます。こうして自由に楽しく話してもらい、話を盛り上げていくシチュエーションをつくるわけです。