他者と共感するには、大脳の3カ所が働かなければならない

 これまでの脳科学の研究から、私たちが他者と共感するとき、脳のどの部位が反応しているか、働きを司っているかは、すでにちゃんと分かっています。他者の気持ちを読み取ったり、他者に共感したりするとき、脳で働く場所は、大脳に主に3カ所あります。

 1つめは前頭葉の内側、ちょうど額中央の奥のほうです。2つめが側頭葉と呼ばれている場所の先端あたり。3つめが側頭葉と後頭葉の間あたりです。これらの場所の脳の働きを測定するには、MRI装置(MRIは核磁気共鳴画像法。脳や血管など水分量の多い部位に高周波の磁場をあてて体内の水素原子に共鳴現象を起こさせ、発生する電波信号をとらえて画像を得る)を使うのが一般的です。

他者と共感するときの脳ネットワーク他者と共感するときの脳ネットワーク。他者の気持ちを読み取ったり、他者に共感したりするとき、主に大脳の3カ所が働く。 拡大画像表示

 しかし、東北大学と日立ハイテクノロジーズ(現・日立ハイテク)が出資してつくり、私が取締役CTO(最高技術責任者)を務める大学発の脳科学ベンチャー企業「NeU」(ニュー)は、手のひらに載るサイズの脳活動センサーの独自開発に成功しました。ちなみにNeUという社名は、脳の神経回路を表すニューロ(Neuro)と新しい価値(New)の提供を意図してつけたものです。

大学発のベンチャー「NeU」が開発した脳計測装置を活用

 この脳計測装置を使って、どのように脳の活動を測定するかというと、「近赤外光」と呼ばれる、可視光線と赤外線の間に位置する波長の光(赤い可視光線に近いが目には見えない)を使います。

 詳しい説明は省きますが、私たちの身体は赤い光を通します。この光を脳に照射すると、ほとんどの光が吸収されるなかで、ごく一部だけが反射して戻ってきます。赤い光を当ててから戻ってくるまでの経路に、赤を吸収するものが多く存在すれば当然、戻りは少なくなります。この反射光をとらえて計測します。脳のある領域が活発に働くと、そこに酸素とブドウ糖を運ぶために血液量が増え、ヘモグロビン量も増えて、反射光が弱まります。こうして、近赤外光を当てて反射光を計測すれば、脳の働きを間接的に測ることができます。これを「近赤外分光装置」(NIRS)と呼んでいます。