「対面会話」と「ウェブ会話」には、大きな違いがあった!

 以上のように決めたテーマにそった会話や議論を、(1)顔を直接見ながらの「対面会話条件」、(2)Zoom(ズーム)を使いモニタを介して顔を見ながらの「ウェブ会話条件」という2つの条件の下で行います。

 5組それぞれが、対面会話条件とウェブ会話条件のどちらもやりますが、実施する順序は組ごとに入れ替えます。「カウンターバランス」といって、順序を逆にすることで、順序の効果が実験結果に影響しないよう相殺(そうさい)させます。この実験は全5組ですから、対面会話を先にする組を3組、ウェブ会話を先にする組を2組としました。

 会話を続ける実験時間は、1回だいたい約5分です。短いと思われるかもしれませんが、長いとすぐ会話に飽きてしまうので、数分が適当です。

東北大学で行った、コミュニケーションに関する緊急実験東北大学で行った、コミュニケーションに関する緊急実験。同じ場所で顔を直接見ながら行う「対面会話条件」と、Zoomを使い、モニタを介して行う「ウェブ会話条件」の両方を行って比較する。 拡大画像表示

 実験の結果を、端的に申し上げましょう。対面会話条件で話すときは、実験参加者5人の“脳の同期”が有意に観察されました。「有意に」とは、たまたま偶然それが起こったのではなくて、統計的に意味があるものとして起こったということです。脳の同期とは、脳の活動が一同に上昇したり、下降したりと同じような動きをしていることを指します。脳の活動がお互いにシンクロしている状態ともいえます。ところが、ウェブ会話条件で話すときは、5人の間で脳の同期が起こりませんでした。対面のときと同様みんなが興味を持つテーマを、オンラインであることだけを除けば、対面と何ひとつ変わらないように話したにもかかわらず、です。言い換えれば、対面会話では参加者それぞれの間で「共感」が生じたのに、オンラインのウェブ会話ではそれが生じませんでした。

 オンライン会議では「その企画すごくいい」「そうそう、私も同感」といったやりとりが交わされます。これは「同感」という言葉を使っているが、あるアイデアを複数の人が「すごくいい」といった以上、アイデアへの「共感」が起こっているのでは? 誰一人共感しないなんてことが、あるのかしら? そう思った読者が、いるかもしれません。あるいは、みんな「この人は波長が合う」「あの人とは合わない」などと日常的に口にしていますから、それと脳の同期は同じような話なのか、脳の同期とはいったいどうやって測定するのだろう、と気になる人もいるでしょう。

 私たちが実験で使った装置や、今日まで重ねてきた実験も紹介しながら、緊急実験に至った背景やストーリーを詳しくお話ししましょう。