非認知能力は訓練によって
高めることができる

 それに対して、非認知能力は訓練によって十分に高められることが示されている。非認知能力は、対自的能力と対他的能力に分けることができる。いわば、自分の心の状態を理解し、それをコントロールする能力と、他人の心の状態を理解し、それに対応する能力を指す。

 他者の情動を適切に理解することができないと、思いやりに欠けた言動を取って傷つけてしまったり、気持ちを逆なでするようなことを言って怒らせてしまったりして人間関係に支障をきたしてしまう。共感したり同情したりできないと、親密な人間関係を築きにくいということもあるだろう。また、自分の情動を適切にコントロールすることができないと、怒りを爆発させてせっかくの関係を台無しにしたり、落ち込みすぎて仕事に支障をきたしたりといったことも起こってくる。

 たとえIQが同じ程度であっても、誘惑に負けてすぐにさぼってしまったり、頑張らねばならないときに粘れなかったりすると、目標に向けて自分の気持ちをうまくコントロールし忍耐強く取り組む子と比べて、勉強でもスポーツや音楽などの部活でも、成果を出すのは難しい。

 実際、多くの心理学の研究により、非認知能力が高いほど、学業成績が良好なこと、仕事の成績が良好なこと、人間関係が良好なこと、幸福感が高いこと、人生に対する満足度が高いこと、身体的健康度が高いこと、抑うつ傾向が低いこと、孤独を感じにくいことなどが報告されている。

自己コントロール力を測る
マシュマロ・テスト

 非認知能力の中核をなすのは自己コントロール力である。自分の情動を適切にコントロールすることは、勉強や仕事に取り組む際にも、人間関係上でも、必要不可欠と言ってよいだろう。自己コントロールに関する研究の原点とみなすことができるのが、ミシェルたちの満足遅延課題を用いた実験である。

 その実験は、マシュマロ・テストとも呼ばれ、子どもにマシュマロを見せて、今すぐ食べるなら1個あげるが、研究者がいったん席を外して戻るまで待てたら2個あげると告げ、待てるか、待たずに食べるかを試すものだ。これは、大きな目標のために欲求充足を先延ばしできるかどうかをみるための実験といえる。