ただ、このPIECLEXが誕生するまでには試行錯誤があった。元々は、2007年に村田製作所が行った新規事業を自由に提案できる社内公募制度「未来の扉」に、同社の技術者であり、今はピエクレックスの取締役を務める安藤正道氏が、テレビの画面に貼る透明なスピーカーの開発で応募し、採用されたのが始まりだ。

「洋服が電源」も夢じゃない?発電繊維が秘めた大きな可能性とはデサントジャパンが22年3月に発売したマウスカバー「PIECLEX MASK(ピエクレックスマスク)」(税込2970円)。話したりして口を動かすだけで抗菌効果を発揮する 写真・図提供/ピエクレックス

 以来、三井化学との共同研究がスタートした。「透明で、電圧をかけると振動するポリ乳酸が材料の候補となり、試作品はできた。だが、高音はきれいだが、低音が出ないためスピーカーとしては実用化が難しく、研究は頓挫してしまった」と、安藤氏は当時を振り返る。

 その後、曲げたりねじったりすると電気が生じるポリ乳酸の特性を生かし、フィルムセンサ「Picoleaf(ピコリーフ)」の開発に成功。企業での採用を獲得し、量産化にもこぎつけた。

「今度はポリ乳酸を糸にして、アパレルに縫い込んだら面白いのではないかということで、帝人と一緒に研究を推進した。これも難航したが、ある時アパレル業界で衣服に繁殖する菌の抑制が課題になっていることを耳にした。もしかしたら糸から出る電気で菌を死滅できるのではないかと考え実験すると、細菌の増殖を抑制する効果があることが分かった」(安藤氏)。透明スピーカーの予定が、こうして紆余曲折を経て、薬剤を使用せずに抗菌機能を持つ圧電繊維、PIECLEXに行きついたのだ。

「洋服が電源」も夢じゃない?発電繊維が秘めた大きな可能性とはデサントジャパンでは、PIECLEXを使ったスポーツ用ソックスも同時発売。写真は「デサントPIECLEX 3D SOX tabi+」(税込2860円)。いずれも同社公式通販のデサントストアで購入可能 写真・図提供/ピエクレックス

 現在、PIECLEXを用いた製品としては、デサントジャパンが既にマウスカバーとソックスの販売を開始している。今後はTシャツなど他のアパレルでも製品化する予定だ。また、ポリ乳酸の生分解性の特性を生かし、PIECLEX製の衣服を回収して循環システムによって肥料を作り、植物栽培などに役立てる構想もある。

 だが、ピエクレックスの社長である玉倉大次氏によると、それらはあくまでも“第一弾”の取り組みに過ぎないという。では、これからどんな展開があり得るのか。