3年以内に
本格的に発電する繊維の開発を目指す

 現在、ピエクレックスで取り組まれている“第二弾”の研究開発のテーマが、本格的に発電する繊維だ。基本的には今採用しているポリ乳酸とは全く違う原料を使う方向で進めているという。

「ポリ乳酸は抗菌するレベルの電気エネルギーを発生させるのには十分だが、発電レベルとなると現状では不向き。既に運動エネルギーで発電する素材は国内外で数多く開発されており、その中から繊維に向くものを選んで全く新しい発電する繊維を作ることを目指している」(玉倉氏)

 原理の一例としては、古くは自転車のブロックダイナモ式ライトが挙げられる。前輪ホイールに取り付けられ、タイヤが動く運動エネルギーによってダイナモが回転し、電気エネルギーを発生させてライトを点灯させるものだ。

 ポイントは、こうした運動エネルギーを電気エネルギーに転換する仕組みをいかに繊維に組み込むかだ。今までも様々なメーカーや研究機関が挑んできているが、実用化にはいまだに至っていない。そこにピエクレックスはチャレンジし、発明の扉をこじ開けようとしている。

「例えば、アパレルのスパッツを人が履き、歩いたり、走ったりして伸縮するエネルギーを電気エネルギーに変換させる方法が考えられる。あるいは、Tシャツとジャケットを着て、動いて双方が擦れることで静電気のような小さな電気エネルギーを発生させ、それを取り出して活用するアプローチも可能性がある」と玉倉氏は話す。

 ピエクレックスの強みは、原料は異なり、発生する電気エネルギーの量は極めて小さいレベルとはいえ、既に電気の繊維を用いた製品化を成し遂げているということだ。

 さらに、バックには電子部品メーカーでは世界トップクラスの村田製作所と、世界で繊維ビジネスを手掛ける帝人フロンティアがついている。実績と技術力の高さから見ても、ポテンシャルは十分にあるといえる。玉倉氏は「3年以内には本格的に発電する繊維を開発し、製品化につなげていきたい」と意気込む。

 また、発電する繊維でつったアパレルの活用イメージについて、玉倉氏はこう話す。「今はスマートウォッチをはじめ、様々なウェアラブルデバイスが普及している。外出先で完全ワイヤレスイヤホンを使って音楽を聴くことも当たり前の世の中になっている。ただし、それらは充電が必要であることがネック。発電する繊維で作った衣服によって給電できれば、そうしたデバイスは今後、まさに“充電いらず”となる」。

 さらに、より大きな電気エネルギーを取り出せるようになれば、スマホや、今後普及が予想されるスマートグラスの電力もまかなえるようになる可能性がある。

 発電する繊維ができれば、次は親会社である村田製作所とのコラボ施策も見えてくる。

「村田製作所が作るセンサーや超小型の充電電池などを衣服のどこかに組み込み、繊維から電気を集めて蓄電し、必要な時に持ち運んでいるデバイスに給電するモジュールなどが考えられる。目指すところは、そうやって村田製作所の電子部品とつなぐことで、これを早く実現させたい」(玉倉氏)

 今までアパレルには様々な新機能が備わってきたが、発電はそれらを凌駕する飛躍的な進化といえる。動くだけで電気が生めるとなれば、人間の歩行や走行、運動自体が“資源”となる。これが実現すれば、エネルギー問題に対しても、その解決の一助となり得るだろう。

(大来 俊/5時から作家塾(R))