「知の探索」を超長期で行い
「知の深化」を超短期で行う

入山先生

入山 たまたまこの対談の前に、まさに白坂先生がご専門だと思うのですが、あるかたと宇宙ビジネスの話をしていたんです。

 宇宙ビジネスのうち、衛星データを活用したビジネスのトータルのマーケットは、今はまだ世界で何千億くらいですが、20年後には絶対に10兆円マーケットになる。アメリカはそれがわかっているので、皆、どんどん投資をして、元気のいいベンチャーがたくさん出てきている。それに引き換え、日本の宇宙ビジネスへの投資額は世界で20位以下とか、非常に低いんだと言うんですね。

白坂 ええ、確かに低いですね。

入山 宇宙ビジネスとなると、長期の話なので、すぐに3000億円の売り上げが生まれたりはしません。でも、実際どうなるかはわからない、でも、未来に必ず来るはずだ、というところに「張れる」かどうかがカギですよね。これはまさに「知の探索」です。

白坂 そうですね。宇宙関連のビジネス、これはほかの先端技術も皆そうだと思うんですが、2040年を見据えれば、絶対にもうかるんです。2050年を見据えるならばブルーオーシャンだらけです。にもかかわらず、企業はどうしても3年後、5年後しか見られないから、投資ができない。ですから、すべては「長期で考えることができるかどうか」なんです。

 2050年には、一定数の人が、一定期間、宇宙に住んでいる。そうなると、今、身の回りにあるあらゆるものが宇宙でも必要になります。となると、日々の生活必需品に対して、「場所」で産業が定義されるのはちょっとおかしいですよね。宇宙は単なる場となるだけであり、そうすると「宇宙産業」という言葉は、いずれごく一部の宇宙に特有のもののみを指す言葉になるはずです。

 そういう産業が山のようにあって、日本にあるほとんどの産業が、恐らく宇宙へ進出できる。今の日本の日常にある産業のほぼすべてが宇宙でもうけられるポテンシャルがあるということです。それなのに、やはり短期思考でリスクが取れないとなると、皆、将来に「張る」ことができない。だから結局、「張れる」企業が、総取りすることになるんです。

入山 日本の企業で非常に問題なのは、中期経営計画、いわゆる「中計」です。長期が大事なのに、そして法律で決まっているものでもないのに、3年や5年の計画を、企画部がもう死ぬほどがんばってつくって、燃え尽きる。しかもさらに問題なのは、つくったらそれきりでおしまいというところです。見直さないので、まったく意味がない。

「知の探索」のポイントは超長期なので、今からであれば2040年とか2050年を見るべきであり、まだブームになっていないものなので、投資単価が安い。だからこそ、いろいろなものにたくさん「張れる」んです。もちろん、わからない未来に向けて張るので、多くは失敗します。でも、いくつもの案件に投資していれば、そのうちの1つぐらいは当たる。コツコツと我慢して10年ぐらいやっていると、どれかが当たる。当たれば、さらに集中して投資して、「知の深化」へ持っていき、一気にもうける。

 こうしたことは、グローバル企業が当然のようにやっていることなんです。一方で日本企業は、超長期を見ず、目の前でももうかりそうなところだけ、ちょこちょこ投資をします。最近、グローバルM&Aが注目を浴びていて、何千億円といった投資が日本でもできるようになったとメディアをにぎわしていますが、それは正確には違っていて、海外の投資銀行につかまされているだけですからね。

 そういうことではなくて、自ら超長期でいろんなところに「張り」ながら、もうかりそうなところには、がっと超短期で深掘りする。「超長期」&「超短期」というのが重要なんですね。