パネルディスカッション

2022年7月29日に開催された「ダイヤモンド・オンライン 経営・戦略デザインラボ」のオンラインイベント「グローバル時代の組織と経営システム」。その中のパネルディスカッション「ワールドクラスの経営を実現する組織をいかにつくるか」では、谷村圭造氏(アサヒグループホールディングス 取締役 兼 執行役員 CHRO)、横田貴之氏(資生堂 取締役 兼 執行役員 兼 CFO)、横山之雄氏(日清食品ホールディングス 取締役 兼 CSO グループ経営戦略責任者 兼 常務執行役員)ら、HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが登壇。その模様を前編と後編に分けてお伝えする。前編では、「グローバル経営におけるここ数年の環境の変化について」や、「グローバル最適とローカル適応のバランスをどのように取るか?」について、活発な議論が繰り広げられた。(進行/ボストン コンサルティンググループ パートナー&アソシエイト・ディレクター 日置圭介、文/相澤摂、撮影/堀哲平)

※本記事は、2022年7月29日に開催されたオンラインイベント「グローバル時代の組織と経営システム」の内容を基に再編集したものです。

「変化の深層潮流」が一気に表層化
グローバル経営への影響は?

【アサヒ×資生堂×日清】変化を嗅ぎ取ることのできる企業とできない企業の違いは?HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが語る日置圭介(ひおき・けいすけ)
ボストン コンサルティング グループ パートナー&アソシエイト・ディレクター。税理士事務所勤務から英国留学を経て、PwC、IBM、デロイトでコンサルティングに従事。2020年6月よりボストン コンサルティング グループにパートナー&アソシエイト・ディレクターとして参画。日本CFO協会主任研究委員、日本CHRO協会主任研究委員。著書に『ワールドクラスの経営』(橋本勝則、昆政彦との共著)など。

ボストン コンサルティング グループ 日置圭介(以下、日置) 世界の文化や価値観などの多様性に対応した「グローバル経営」には、一定の型こそありますが、究極的な「解」というのは存在しません。

 今回、アサヒグループホールディングス、資生堂、日清食品ホールディングスというグローバル企業の中で、この非常に難しいテーマに挑んでいるエグゼクティブの方々に集まっていただきました。

 何に悩み、自社としての「最適解」をどのように探求し、取り組んでいらっしゃるのか、ぜひ忌憚(きたん)のないディスカッションをしていただければと思います。

 まず、グローバル経営の陣頭に立っていらっしゃる皆さんにお聞きしたいのは、「この数年で、グローバル経営の環境について、何か変化を感じていらっしゃるかどうか」「変化があるのであれば、実際に経営にどのような影響をもたらしているか」です。

 世界経済を成長させた資本主義ですが、その副作用として経済格差が広がりました。また、グローバリゼーションの揺り戻しで、ナショナリズムやポピュリズムが勢いを得ています。その背景には、大国間のパワーバランスの変化があります。

 一方で、経済のみならず、社会や環境の側面からも企業を評価する「トリプルボトムライン」の動きが本格化し、それをテクノロジーの進化が後押しした。こうした、脈々と続く「変化の深層潮流」が、ここ数年で一気に表層化してきたと私は見ています。

 コロナ禍やウクライナ紛争が、現在、そしてこれからの社会のあり方に一石を投じていますが、これまでの人類史を鑑みれば、感染症や戦争がまったく想定外の事態だったというわけではありません。皆さんはどのように捉えていらっしゃいますでしょうか?

【アサヒ×資生堂×日清】変化を嗅ぎ取ることのできる企業とできない企業の違いは?HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが語る谷村圭造(たにむら・けいぞう)
アサヒグループホールディングス 取締役 兼 執行役員 CHRO。1989年、アサヒビール入社。2009年、オーストラリアに赴任。2014年、アサヒグループHD人事部門ゼネラルマネジャーに就任。2017年、執行役員に就任。2018年、執行役員 グローカルタレントマネジメント担当として、グローバルの人事担当。2019年、取締役 兼 執行役員、2020年より現職。担当職務は、管理・ガバナンス領域(人事、法務、総務、監査)、サステナビリティ。サステナビリティと経営の統合を進め、CHROとしてグループ共通の人事方針の策定やDE&Iの取り組みを推進。

アサヒグループホールディングス 谷村圭造(以下、谷村) 非常に概念的な話になりますが、「グローバル経営」を行う上での前提、「依(よ)って立つ枠組み」のようなものが、揺らいでいると感じています。

「この枠組みに則(のっと)ってやっていれば大丈夫」というようなものはなくなり、各社・各自で考えて選択したり、あるいは、枠組みそのものを自らつくったりすることが、求められるようになったのではないでしょうか。

 例えばアサヒグループでは、2019年にグループ理念をつくり、中期経営方針として「グローカルな価値創造経営」を掲げましたが、「ローカル」の位置づけが3年前と今では大きく変わりました。そうなると当然、グローバル本社の役割も変化しますし、もっと言えば、当社の強みそのものを再定義して進化させる必要もあるでしょう。

 そのときに「戦略」が重要なのはもちろんですが、それと対(つい)になる「人材」と「文化」がなければ、経営は回っていきません。「戦略」「人」「文化」の関連性がさらに重要になっていると思います。

資生堂 横田貴之(以下、横田) 「人」がカギを握るというのは、私も感じるところです。

 グローバル・サプライチェーンの混乱によって、多くの企業が影響を受けていますが、先が読めないという点では、消費者トレンドも同様です。情報があふれ、目まぐるしくトレンドが移り変わる中で、どうやってアジリティを引き上げそれに対応するか。われわれのような消費財メーカーにとっては、極めて重要な課題です。

 そのためには、ITの活用やデータの共有はもちろん重要ですが、それを見て、現場が自分たちで判断できなければ意味がありません。となると、やはり「人」なんですね。人へのエンパワーメントによって経営のスピードを引き上げることが、これまで以上に求められているのではないでしょうか。

日清食品ホールディングス 横山之雄(以下、横山) 「人」も「情報」も次々とつながるグローバリゼーションのひずみが、「分断」という形で表れていると感じています。