Photo by Teppei Hori「システム・オブ・システムズという概念が登場したことで、我々は、ますます変わらなくてはならなくなった」

2022年7月1日に開催したイベント「イノベーションが起こる組織の条件」にて、ベストセラー『世界標準の経営理論』の著者、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)の入山章栄教授と、システムアーキテクチャの第一人者、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の白坂成功教授が登壇。イノベーション創出を促す組織開発やコミュニケーションに重要な「センスメイキング」と「システム思考」を長年、追求し続けているアカデミア界の新進気鋭の2人が、日本企業からイノベーションが生まれにくい理由や、「経路依存症」の罠の克服方法などを、徹底的に語り合った。5回にわたり対談の内容をお送りする。(聞き手/ダイヤモンド社 ヴァーティカルメディア編集部 編集長 大坪亮、ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、文/奥田由意、撮影/堀哲平)

※本記事は、2022年7月1日に開催されたオンラインイベント「イノベーションが起こる組織の条件」の内容を基に再編集したものです。

「Society 4.0」と「Society 5.0」は
一体何が違うのか?

――「失われた30年」とも言われる中、私たちを取り巻く環境は、テクノロジーの進展や、コロナ禍含め、急激に変化する一方で、日本企業はなかなか変化に対応できないままです。

 入山先生は、過去の制約に縛られた「経路依存性」が大きな原因であると常日頃から指摘されており、また、白坂先生は、DX時代の新たなマネージメントとして、社会全体で学習する必要があると提言されています。これらの点を含め、日本企業はなぜ変化に疎いのか? 日本企業からなぜイノベーションが生まれにくいのか? おふたりにお話を伺いたいと思います。

白坂成功(以下、白坂) まずは私から、これからの新しい社会において、どうやってイノベーションを生み出していくのか? 企業などの組織はどうあるべきか? このあたりのベースになることを2点お話させていただければと思います。

白坂先生白坂成功(しらさか・せいこう)
應應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。東京大学大学院修士課程修了(宇宙工学)、慶應義塾大学後期博士課程修了(システムエンジニアリング学)。大学院修了後、三菱電機にて15年間、宇宙開発に従事。「こうのとり」などの開発に参画。大学では技術・社会融合システムのイノベーション創出方法論などの研究に従事。2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科非常勤准教授。2010年より同准教授、2017年より同教授。2015〜2019年まで、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)のプログラムマネージャー。宇宙スタートアップ「Synspective」共同創業者。IPAデジタルアーキテクチャ・デザインセンターアドバイザリーボード座長として新産業構造構築に携わる。内閣官房 デジタル市場競争会議委員、経産省 産業構造審議会グリーントランスフォーメーション推進委員会委員など、多くの政府委員会委員も兼任。

 1点めが、構造が大きく変わりつつある「デジタル社会と産業」についてです。

 すでにみなさんご存知かと思いますが、「Society 5.0」という概念があります。要は、サイバー空間とフィジカルの世界(我々のいる物理的なリアルの世界)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題を両立する、人間中心・ユーザー起点の社会をつくっていこうというものです。

 では、「Society 4.0」と「Society 5.0」、何が違うのでしょうか?

 もちろん、4.0だって、サイバーもフィジカルも、両面がありました。ただ、これらの間に「人」が介在していたというのが、4.0の時代だったんですね。つまり、フィジカル空間の情報を、サイバー空間にインプットする「人」がいて、サイバー空間上でその情報が計算される。

 たとえば、自動車であれば、目的地を人がサイバー空間にインプットして、計算した結果、示された最適経路に沿って、人が自動車を運転します。

 ところが5.0では、「人」が介在しない社会になるんですね。サイバーとフィジカルの間に人がいなくなることで何が起きるかというと、サイバーとフィジカルが、自動的につながりだすんです。

 先ほどの自動車の例で言うと、目的地の情報を自動で取り込み、そのデータを基に経路が計算され、計算された結果を基に、自動車が自動で動く。

 つまり、人がいないところで物事がクローズループし、社会が回っていく。さらに、「AI」がサイバー空間に入ることによってAIが学習し、人が介在することなく、どんどんその仕組みが進化していく。このような時代にすでになっていっています。

 そこで重要なのが、「System of Systems」(システム・オブ・システムズ)という概念です。この概念が登場したことで、我々は、ますます変わらなくてはならなくなりました。