【リスクその1:生活基盤を失う】

 同性パートナーと暮らしていた家が亡くなったパートナー名義だった場合、法定相続人が所有権を取得することになる。2020年4月1日以降に発生した相続について、配偶者居住権という新しい規定ができた。亡くなった人が所有していた建物に、残された配偶者が住み続けられるようにする規定だ。しかしこれにはいくつか満たすべき要件があり、その要件の中には「法律上の配偶者」であることが含まれている。つまり、同性のパートナーには配偶者居住権は認められない。相続対策をしていなければ、自宅を追い出されるリスクがあるのだ。

 また、法律上の夫婦と同じく同性パートナーどうしでも、片方の名義の預貯金口座を家賃や光熱費など生活費のための口座として共有しているというケースは多いだろう。この預貯金口座が亡くなったパートナー名義だった場合、口座は凍結されてしまい引き出すことができなくなる。法定相続人が金融機関に出向いて所定の手続きをすれば凍結解除ができるが、法律上の権利がない同性パートナーには手続きができない。たとえ口座の半分が自分のお金でも、それが証明できなければ自分のお金ごと法定相続人の手にわたってしまうリスクがある。

【リスクその2:仕事を失う】

 同性パートナーと事業や店を共同で経営していた場合や、同性パートナーのもとで仕事をしていた場合、パートナーの死によって仕事も失ってしまうかもしれない。

 2020年3月27日、大阪地裁が同性パートナーの相続などをめぐる訴訟に判決を言い渡した。原告の男性は40年以上同居していた同性パートナーが亡くなった際に、遺族から火葬場への同行などを拒否され、一緒に経営していた事務所もパートナー名義の事務所の賃貸借契約を解約されて廃業に追い込まれたという。男性はこれを不当として、遺族に財産分与と慰謝料を求める訴訟を起こしていた。だが、大阪地裁は二人がパートナーであることを遺族が認識していなかったとして、原告の請求を棄却している。

 原告の男性と亡くなってしまったパートナーは、相続対策として養子縁組をしようとしていたそうだ。しかし、有効な相続対策や周囲へのパートナー関係の周知を行う前にパートナーは亡くなってしまった。長年連れ添った間柄であっても、相続対策をしていないとこのケースのように仕事まで失ってしまうこともあるのだ。