政権批判をそらすために
ナショナリズム強化の可能性

 そして二つ目は、中国国内での反政権的な動向である。

 実は、10月の共産党大会の前後、中国では反政権的な動きが見られた。たとえば、共産党大会の直前、北京市北西部にある四通橋では「ロックダウンではなく自由を、うそではなく尊厳を、文革ではなく改革を、PCR検査ではなく食料を」「独裁の国賊・習近平を罷免せよ」などと赤い文字で書かれた横断幕が掲げられ、同市内の映画館のトイレなどからも同様に習氏を批判するものが発見されたという。

 また、同大会直後には、上海で若い女性2人が「不要」などと書かれた横断幕を持って車道を歩く動画がツイッター上に投稿された。さらに、最近チベット自治区の中心都市ラサでは新型コロナ政策に抗議する数百人レベルの大規模デモが発生し、一部が警官隊と衝突した。ラサでは3カ月近くもロックダウンが続いているが、抗議デモに参加した多くは、チベット族ではなく同地区に出稼ぎに来た漢民族とみられる。

 習政権は少しの感染者数でも撤退的に感染拡大を抑えるゼロコロナ政策を徹底してきたが、それにより市民は一般的な日常生活が送れなくなり、日本企業など外資企業の経済活動も大きく制限された。

 習政権の中にはゼロコロナ政策という口実で反政権的な動きを抑えたいという政治的狙いもあろうが、それによって市民の社会的・経済的不満や怒りがいっそう強まっていることは想像に難くない。習政権にとっては経済成長率が鈍化してきていることは大きな懸念材料となろう。

 しかし、今後、習政権がこの問題に直面することになれば、その批判をかわすためそらすため、対外的に強硬な姿勢に転じ、国民の忠誠心やナショナリズムを高める政策を強化する可能性がある。そうなれば、習政権の対外政策にとって問題となっている台湾有事や米中対立などでより強気の姿勢を示してくることも想定され、それが日中関係に影響を与えることが懸念される。

 台湾有事を回避する策、中国に軍事的手段を思いとどまらせる抑止策などが打ち出され、今後とも日中関係が安定することを願ってやまない。しかし、国際政治や安全保障はその外で動いていく。今後の日中関係を探っていく上で日本企業は以上のような地政学リスクを意識する必要があろう。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)