シニアの一人ひとりが職場で活躍するために、人事部と本人が心がけること

働く意欲のあるシニア が増え続ける一方で、企業は慢性的な人手不足に悩んでいる。雇用する企業側と雇用されるシニア側の条件がマッチすれば、人材難にも、一人ひとりのシニアが抱える生きがいや収入にまつわる悩みにも、解決の糸口が見えるだろう。「シニアをどのように雇用し、組織の中でどう戦力化していくべきか?」「年下の管理職による“シニアのマネジメント”は難しいのではないか?」――こうした、経営層や人事担当者の懸念をなくし、誰もが働きやすい職場をつくるためには……。“シニアの働き方”についての多くの知見を持ち、さまざまな企業や就労者とコンタクトを続ける川畑美穂さん(株式会社リクルートスタッフィング エンゲージメント推進部 部長)に話をうかがった。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

*本稿では60歳以上を「シニア」とする。

シニア層がうまく就労できていない理由は何か?

 総務省統計局の「労働力調査」によれば、2021年の労働力人口*1 は約6860万人――15歳~65歳以下が前年より約15万人減少し、全体に占める65歳以上の比率が伸びている。また、日本・東京商工会議所の最新調査*2 によれば、「人手が不足している」と回答した中小企業は64.9%――中小企業の多くが人手不足に悩んでいることがうかがい知れる。

*1 労働力人口とは、15歳以上人口のうち,就業者と完全失業者を合わせた人口のこと。
*2 人手不足の状況および新卒採用・インターンシップの実施状況に関する調査(2022年7月19日~8月10日調査)

川畑 昨年(2021年)、高年齢者雇用安定法が改正されて、「70歳までの就業確保に向けた支援措置の努力義務」が課せられるようになったことは、企業にとって大きな変化です。人材確保のひとつの手段として、自社で活躍してきたシニアを70歳まで継続雇用する――このことをポジティブに受け止めている企業は比較的多いですね。 “フルタイムで働ける正社員”の確保という、これまでの採用基準に限界を感じ、継続雇用・人材派遣・業務委託契約など、さまざまなかたちでシニアを活用する企業が増えているのは自然な流れだと思います。

川畑美穂

川畑美穂 MihoKAWABATA

株式会社リクルートスタッフィング エンゲージメント推進部 部長

2003年にリクルートスタッフィングへ入社し、事務職領域のジョブコーディネーターおよび派遣営業を経験。その後、全社戦略推進や営業育成を担う事業推進部のマネジャーを務め、2021年より部長に就任。事務職へのキャリアチェンジを応援する派遣サービスをはじめ、シニア派遣や障がい者雇用、ZIP WORKなど多様な働き方を推進している。

 

 内閣府の調査*3 によれば、就労中の60歳以上のシニアのうち「最低でも70歳までは働きたい」と思う人は87.0%。そのうち、「働けるうちはいつまでも働きたい」と思う人が36.7%となっている。働き続ける動機について、リクルートスタッフィングがシニア層にヒアリングを行ったところ、70代女性のAさん(金融系企業で正社員として長年活躍し、現在はベンチャー企業で就業)は「生きている限り、税金や健康保険料を支払う必要があるので、体が動く限り働き続けたい」と答え、60代女性のBさん(公共団体の事務職を経て、現在も事務仕事に就業)は「働くことで社会とのつながりを保ち続けたい」と回答している。他にも、「年金受給年齢がまだ先なため」「いままでに培ってきた経験を生かして、社会に恩返しをしたいから」など、働き続けたい理由は十人十色のようだ。

 また、こうした声がある反面、「仕事をしたいのに就労できない」シニアも多いようで、その理由として、男性は「働きたい職種がない」、女性は「時間の都合が合う仕事がない」といった声があると川畑さんは解説する。

*3 内閣府「令和3年版 高齢社会白書」より

川畑 中小企業をはじめ、多くの企業が人手不足で悩んでいる状況ですから、仕事自体がまったくないわけではありません。シニア層が思うように就労できていない理由のひとつとして、企業側が「フルタイムで働ける若い人を求めている」という“年齢の壁”があります。また、シニアが自分に合った仕事を探す方法を知らないこともあるでしょう。当社の派遣スタッフ登録者のなかにも、「『年齢的に派遣登録させてもらえるはずがない』と周囲に言われていた」という方がいらっしゃいます。さまざまな理由が結びついて、シニア層がうまく就労できていない状況です。