「シニアは扱いが難しい」という認知バイアスの存在

 リクルートスタッフィングの派遣先企業からは「シニアは働く場所にこだわらない方が多い」という声もあがっている。子育て世代であれば、保育園から近い勤務地を選ばざるを得なかったり、朝晩の勤務が難しかったりするのだが、シニアは自分だけの都合で動ける人も多い傾向にある。また、60代女性のBさん(前出)が「勤め先の会社が同年代のシニアをたくさん受け入れているので心強い」と語るように、勤務地や働く時間帯よりも、職場での安心感を求めることも多いようだ。ここ数年の変化でいえば、コロナ禍のリモートワークの浸透で働きやすくなったシニアも増えている。

川畑 「リモートワークで働きやすくなった」という状況はシニアも他の世代と同じです。特にコロナ禍以降、女性の登録者が増えたのは、家事や介護を担う方がリモートワークなら働けるからでしょう。「高齢者はZoomなどのツールを使いこなせないのではないか?」と思われがちですが、先ほどお話ししたエクセルのスキルからも分かるように、すべての高齢者がデジタルに疎いわけではありません。事務系やIT系の仕事を長くしてきた方であれば、デジタルツールを若い人同様かそれ以上に使いこなすことも可能です。

 しかし、再雇用にしても、派遣や業務委託契約にしても、シニアの雇用に後ろ向きな企業があることはたしかだ。「若い社員はシニアとは働きづらいのではないか?」「年下となる管理職が指示を出しづらいのでは?」「プライドが高いシニアは、自分のスタイルにこだわるのでは?」といった人事担当者の先入観や心配事もあるだろう。

川畑  「雇用するまでは不安だったけれど、受け入れてみたらまったく問題なかった」という声が多いですね。シニアだからという理由で多世代とは明らかに異なる点はないという印象です。問題なのは、「シニアのマネジメントは難しいにちがいない」という認知バイアスが存在していることです。シニアに活躍してもらうときに大切な条件は、「本人に適した仕事であること」「適正な評価と待遇があること」「能力を発揮してもらえる環境であること」の3つです。実は、これらは「シニアだから……」ということではなく、他の世代の人材を迎え入れるときと変わりません。障壁となるのは、あくまでも、「シニアは扱いが難しい」という認知バイアスなのです。人材不足を解消するには、このバイアスを解くことが鍵になります。

 企業の人事担当者や管理職は、「シニアは扱いが難しい」という思い込みではなく、「誇りを持って仕事に打ち込むシニアが若い世代のロールモデルとなる」という点に着目すべきだろう。経験や知見を生かして働くシニアの姿に、 若手社員が“自分自身の明るい将来像”を投影することは想像に難くない。シニアと若手が共存する職場には大きな意義があるのだ。

川畑 シニアには“ギブ&テイク”の考え方を持っている方がたくさんいらっしゃいます。これまでに培ってきたスキルや経験を若手のいる職場に還元したいという思いを抱きつつ、世の中が想像以上のスピードで動いていることを理解しているので、孫世代の社員から教えを乞いたい、という姿勢です。若手にも、自分にはない視点から物事を見られるシニアをリスペクトしている方が多く、そこにはダイバーシティ&インクルージョンにおける対人関係の理想の姿があります。あらゆる世代の人たちがともに働き、学び合う組織からイノベーションが生まれるのでしょう。