「寄り添える大きな木は欲しい。
その中でなるべく自由にさせてほしい」
このエリア(古い戦後日本企業)は、メーカーや公務員が多い。解雇規制によって定年まで勤務でき、退職金と年金で老後も食える安心感があるため、若い段階での賃金は、必ずしも高い必要がない。勤続年数が長いということは、その組織が、実績として潰れていないということだ。「寄らば大樹」で、つつがなく安定した人生を送りたいタイプにとって、「いい会社」といえる。
たとえば平均勤続年数20.2年の味の素は、30代半ばだと手取り550万円(額面700万円強)であるが、50歳までは年齢を重ねるだけで必ず上がっていく年功序列型の人事処遇制度になっている。
「寄り添える大きな木は欲しい。その中でなるべく自由にさせてほしい、という人向きだと思います」(若手社員)。潰れることは考えにくい会社なので、安寧を得ることができる。「前職でバリバリ働いたので、ウチではのんびり、ヒトとしての幸せに走る、という中途入社の人もいます。そんな人ばかりになったら会社が滅びるんじゃないか……」(中堅社員)
NTTグループは、このエリアの典型である。たとえばNTTデータは、「E-tax」(国税)、「e-Ltax」(地方税)、全銀システム(国内銀行間の資金決済インフラ)、CAFIS(クレジットカードの決済インフラ)など、あらゆる日本の中核的な金融インフラを独占的に手掛け、開発・保守を行っている。
そこに公正な競争など、微塵もない。2020年には、全銀システムで40年間以上も銀行間の手数料が変わっていないことが、公正取引委員会の報告書で問題とされた。独禁法違反の疑いが強いが、これが日本の既得権の弊害である。
ぬくぬくと安定した人生を送りたい人は、
このエリアを選ぼう
新規参入の競争がなく、売上が立つのだから、仕事はラクである。
「同期は、もう少しやる気がある人がいるかと思ったのですが、予想以上にみんな、やる気がない。もともとNTT系は保守的で安定志向の人が集まる会社なので、ある程度わかっていましたが、想定以上でした。クラスの集まりで話していると、自分がやりたい仕事について語る人は2~3割。それ以外は、仕事については『やだな、だるいな』というタイプが多いです」(NTTデータ若手社員)。
“国家公務員IT職”みたいなものだ。
こうした既得権(退職金税制、解雇規制、黙認される独禁法違反……)に守られ、ぬくぬくと安定した人生を送りたい人は、このエリアの会社を選ぶとよい。
少なくともこの20年間、なにも起きていない。規制改革は、小泉政権と安倍政権の初期を最後に、ほとんどすべての政党がなにも言わなくなり、メディアも既得権のぬるま湯に浸かって居心地がよいため、問題提起すらしなくなった。
日本は、全員で、少しずつ貧しくなっていく道を着実に選び、歩んでいる。そのなかで、平均以上の生活を送れるのが、このエリアである。
(本記事は『「いい会社」はどこにある?──自分だけの「最高の職場」が見つかる9つの視点』の本文を抜粋して、再編集を加えたものです)